平成31年2月6日付朝日新聞
「オマエの荷物全部池に捨てる」 高2自殺でいじめ認定
山口県の村岡嗣政知事(左)に報告書を手渡す、県いじめ調査検証委員会の堂野佐俊委員長=2019年2月5日、山口県庁
山口県周南市で2016年、県立高校2年の男子生徒(当時17)が自殺し、いじめの有無を調べていた調査検証委員会は5日、報告書を公表した。LINEメッセージによる仲間外れなど、いじめがあったと認定し、自殺に影響があったと結論づけた。
男子生徒は16年7月の未明、駅構内で貨物列車にはねられ死亡した。スマホに「オマエの荷物全部池に捨てる」「顧問に退部届けもらって」というメッセージが残っていた。
報告書などによると、テニス部に所属していた男子生徒は同月、野球部顧問に「助っ人」を頼まれて入部。テニス部の練習に十分参加できず、部のLINEグループから強制的に退会させられ、部室の荷物引き取りを求められた。
検証委はLINEの強制退会について「つながりを重視する現代の高校生にとって残酷な行為の一つ」として、いじめと認定した。
検証委は教職員らの聞き取りを実施。別の生徒から身体的特徴を揶揄したあだ名をつけられ、リボンを頭に付けられてスマホで撮影されるなど計18項目のいじめを認定した。教職員も野球部の雑用を押しつけるなど「いじめに類する行為」があったと指摘した。
そのうえで「教職員による十分な配慮と対応があれば、自死は防げた可能性があった」と指摘した。
県教委は16年8月に第三者委を設置し、17年11月に「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」とする報告書を公表。遺族が再調査を求め、検証委が調べていた。
(井上怜、棚橋咲月)
男子生徒のLINEに残された主なメッセージ
(テニス部員から)
「部室にあるオマエの荷物全部池に捨てる」
「顧問に退部届けもらって」
「さよなら」
「しねや」
(亡くなる直前、友人と)
「たすけて」
「野球部には行かんって野球部顧問にいっとって」
「なんか俺もう無理やわ」
「なにが?」(友人)
「いろいろ」
「俺もう無理かも」
「どうしたん」(別の友人)
※報告書と遺族への取材から
男子生徒の自殺をめぐる主な経緯
2016年7月 山口県周南市で県立高校2年の男子生徒(当時17)が列車にはねられ死亡
8月 県いじめ問題調査委員会が調査開始
17年8月 男子生徒の遺族が調査委にいじめと自殺の因果関係を明確に盛り込むよう求める意見書を提出
11月 調査委が報告書を公表。「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」と結論
12月 遺族が県に再調査申し入れ
18年2月 調査検証委員会が初会合
19年2月 検証委が調査報告書を公表
◆調査検証委員会の報告書の骨子
・「仲間はずれ」など、学校生活での多くの要因が複雑に絡み合い相乗的に作用したことが自死に大きく影響した
・雑用の押し付けや、全校生徒の前で名前を呼び周囲が笑うなど5項目で教職員からの「いじめに類する行為」があった
・女子生徒の制服のリボンを頭に付けられてスマホで撮影されるなど18項目を「いじめ」と認定
・教職員による十分な配慮と対応があれば、自死は防げた可能性があった
いじめ認定へ家族3人3カ月、執念のLINEロック解除
男子生徒が通学に使っていたリュックサック(手前)と部活用のバッグ。部屋はずっとそのままにしてある=山口県周南市、棚橋咲月撮影
山口県周南市で県立高校2年の男子生徒(当時17)が2016年に自殺し、調査検証委員会が5日、いじめによる自殺と認定した。「息子は生きたかったはず」。生徒の母親は話す。
16年7月、教員の要請でテニス部と野球部を掛け持ちになると、息子は疲れ、いらだつようになった。亡くなる2日前、「何でそんな顔しちょるん」と聞くと「俺にもいろいろあるんじゃあ」と言い返された。これが最後の会話となった。
「人懐っこくて、曲がったことが嫌いな自慢の息子」。追い詰められていたことになぜ気づけなかったのか。高校に問い合わせると「変わったところはなかった」と告げられた。
息子が残したスマホのLINEアプリ。閲覧には4桁のパスコードのロック解除が必要だった。「0000」から家族3人で順番に試し、途中であきらめかけた時もあったが、3カ月かけて解除。
履歴に友人に送ったメッセージが残っていた。「なんか俺もう無理やわ」「なにが?」「いろいろ」
履歴をたどると、野球部の練習でできた手マメの写真を送って「つらい」と漏らし、足が遠のいたテニス部の部員から「しね」「オマエの荷物全部池に捨てる」と書き込まれていた。テニス
部員のLINEグループからの強制退会の記録も残っていた。通信記録は県の第三者委に提供した。
今も息子の死を受け入れられず、部屋は当時のまま。仏壇は息子が好きだった抹茶入りのお菓子やパンダのグッズで埋め尽くされる。食事は必ず息子の分もつくる。「報告書を必ず再発防止につなげてほしい。学校は子どものどんなサインも見逃さないでほしい」(棚橋咲月)