令和元年8月26日付朝日新聞滋賀版

越直美・大津市長に聞く いじめ防止への取り組み

夏休みが終わり、新学期が始まる。でも、いじめや人間関係などに悩み、「学校に行くのがつらい」と感じている子どもらの救いとなる居場所はあるのだろうか。小学生と高校生の時にいじめに遭い、今はいじめ防止の政策を進める側となった大津市の越直美市長(44)に取り組みへの思いなどを聞いた。(山中由睦(よしちか)、新谷千布美)

――市長自身も、子ども時代にいじめを受けた経験があるそうですね

小学3年と高校生の時です。親に相談することもできず、休めない。学校に行くことが苦痛でした。

自分の居場所は小学校の時は家に帰ってから。学年が違う友達がいて、私がいじめられていることを知らないので一緒に遊べました。高校の時はクラスで話す人がいなくて悪口を言われても、授業が終わって所属していた水泳部に行くと違うクラスの友達がいました。放課後になるのが待ち遠しかった。

自分がクラスでいじめられている時、それ以外のコミュニティーがあるということも居場所の一つなんだと思っています。

――「居場所」で、いじめられていることを打ち明けられましたか

言えなかったです。いじめられている人間であるということが、恥ずかしいと思っていたので相談はしませんでした。ただ相談できなくても、いじめを受けていることを知らない友達がそばにいたのは良かったと思います。

――市立中学2年の男子生徒が自殺してから8年。子どもの居場所をつくるため、市はどんな取り組みをしてきましたか

子どもの居場所づくりはとても大事。学校以外にフリースクールをつくるとか、(夏休み明けに)学校に行きたくないと思えば、全然行かなくてもいいと思う。いじめられた子どもの声を聞くと、「学校に行きたいけれど行けない」という子どももいます。いじめた人は学校に行っているのに。加害者は学校に行けて、いじめられた子どもが学校から疎外されてしまうのは絶対におかしい。

行きたいと思った時に行ける場所や教室を、学校内につくる必要があると考えています。

――大津市では市立の55全小中学校に、いじめ担当の教員を配置していますね

担任を持たない「いじめ対策担当教員」を置き、いじめの情報が行き渡るようにしています。2010年度に市内のいじめの認知件数は53件でしたが、昨年度は3648件。いじめの対策担当教員が情報を収集し、それまで見逃していたいじめを見つけられるようになったのは大きな成果です。

保健室も大事な居場所です。保健の先生に「おなかが痛い」って言って会いに行くだけでもいい。学校の中の居場所。大津市は学校に1人ずつだった保健の先生を複数配置し、研修を受けてもらい、「こころとからだの先生」に認定する取り組みを進めています。

――学校の外では、いじめ対策推進室を設置し、相談調査専門員が相談を受ける窓口を設けました

教育委員会以外で相談できる場所をつくるためです。相談調査専門員に臨床心理士や弁護士がおり、自宅や公園など学校以外の場所で子どもから話を聞きます。

ただ相談室に本人が連絡することは、すごく勇気がいることです。子どもたちのコミュニケーションの手段は電話よりSNSに移っています。知らない人にいきなり電話するのはハードルが高いので、17年に無料通信アプリ「LINE」の相談窓口を設けました。

昔と違うのは、今は家に帰ってからもいじめが続くということです。大津市では小学生の5割、中学生の8割がスマートフォンや携帯電話を持っています。学校でのリアルないじめがSNS上でも続いてしまう。家に帰ってから助ける手段として、LINEの相談窓口はSNS上の「居場所」なのかなと思います。

――いじめ対策で足りないと感じていることは

いじめが見つかる件数は増えたけれど、先生がいじめと思っていなかったり、発見してもその後の対応がよくなかったりしたこともあります。

大津市では、いじめの疑いがあれば24時間以内に学校が教育委員会に報告書を提出します。これまでに約1万件の報告書があります。どういう対応だと解決し、逆に重大事態になってしまうのかをAI(人工知能)で分析しています。これから先生が大量退職する時代を迎えます。若い人がたくさん入っても「経験がないからいじめの対応ができない」ということがあってはなりません。

 

いじめなどの主な相談窓口(大津市調べ)

《大津市》

*おおつっこほっとダイヤル

電話0120・025・528

弁護士や臨床心理士らの相談調査専門員が、いじめなどに関する相談に応じる。平日の午前9時~午後5時(火曜日は午後8時まで)。

*おおつ子どもナイトダイヤル

電話077・523・1501

夜間も相談員が対応する。午後5時~翌午前9時。第3日曜日は24時間対応している。

《県》

*こころんだいやる

電話077・524・2030

おおむね30歳くらいまでが対象。午前9時~午後9時。

《県教委》

*いじめで悩む子ども相談員

電話077・567・5404

電話だけでなく、直接会う相談にも応じる。平日の午前9時半~午後6時。

《県警》

*少年課大津少年サポートセンター

電話077・521・5735

少年補導に携わる職員が、いじめや非行などの相談に乗る。平日の午前8時半~午後5時15分。

《滋賀弁護士会》

*こどもの悩みごと110番

電話0120・783・998

弁護士が20歳未満の子どもやその保護者を対象に応じる。水曜日の午後3~5時。

大津いじめ自殺問題 大津市立中学2年の男子生徒(当時13)が2011年10月に自殺。市教育委員会はいじめと自殺との因果関係は不明として調査を終えたが、生徒の両親が12年2月に市や元同級生3人らに損害賠償を求めて提訴(3人のうち2人が賠償命令を受けたが控訴し、大阪高裁で係争中)。一方で市の第三者調査委員会が13年1月に「(元同級生2人の)いじめが

自殺の直接的要因」とする報告書をまとめたことを受け、市は15年3月、責任を認めて両親と和解した。この問題をきっかけに「いじめ防止対策推進法」がつくられ、13年9月に施行された。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

Post Navigation