平成28年2月27日朝日新聞社説
高2自殺判決 生徒を追い詰めた暴力
2012年12月に大阪市立桜宮高校バスケットボール部2年の男子生徒(当時17)が自殺したのは、元顧問(50)の暴力が原因だとして、遺族が市に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は市に約7500万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
裁判長は「元顧問の暴行がなければ男子生徒は自殺しなかった」と因果関係を明確に認めた。
そして生徒が暴行を受けた後に無気力になる異変を元顧問が認識していたとも指摘、自殺を予見できたと認めた。
判決後、遺族は「息子のような子を二度と出したくない」と語った。
子どもへの暴力行為は、正当化する余地のない人権侵害だ。市教委はもちろん、教壇に立つ教員、学校関係者はこれを機に改めて心に刻んでほしい。
理解できないのは、事件後に「暴力が自殺の要因」と認めていた市が、裁判で一転して「主な原因は生徒自身の悩みや家族にあった」と主張したことだ。「賠償にあたり、元顧問以外の要素はないのか詰めなければならなかった」と説明する。だが、責任を家族に帰するような主張は遺族感情を傷つけた。
元顧問は13年、傷害と暴行の罪で有罪判決を受けたが、暴力と自殺の因果関係は争点にならなかった。
遺族は関東に移り住んでから因果関係などの認定を求めて訴訟を起こした。市はもっと遺族側に寄り添った対応はできなかっただろうか。
体罰は指導上やむを得ないという考えは、今も根強い。
文部科学省によると、14年度に体罰で処分された公立の小中高校などの教職員は952人で、前年度の約4分の1に減ってはいる。だが、ゼロと回答する県もあり、実態がどこまで把握できているか、疑問も残る。
兵庫県姫路市立中学校の教諭が、いじめを受けて骨折した生徒について「病院では階段から転んだことにしておけ」と別の教師に指示したとして、今月停職6カ月の懲戒処分を受けた。
ことを荒立てず、面倒を避けたい。そんな勝手な隠蔽体質が学校現場にあれば、子どもたちは救われない。
学校や教育委員会は、体罰は顕在化しにくいとの前提に立ち、被害の掘り起こしに努めるべきだ。
定期的なアンケートや、外部に相談窓口を設ける取り組みなどを広げたい。
暴力はもちろん、教師の暴言や不用意な一言も、子どもを傷つける。教師は自らの指導方法を常に省みてほしい。教師同士が互いの指導に意見を言い合える雰囲気作りも不可欠だ。