「黒塗り」資料の束、情報開示拒む市教委 【検証】東広島の中2指導死<中>

2023年9月9日付中国新聞

3月9日中国新聞

「なぜこれほど、わが子の情報に手が届かないのか」。黒塗り部分が目立つ開示資料を広げて思いを語る両親(撮影・田中慎二)

裁判経過

2012年10月に亡くなった広島県東広島市立中2年男子生徒=当時(14)=の自宅。両親の手元に、文字の多くが黒く塗りつぶされた書類の束が残る。自殺直後の市教育委員会臨時会の会議録、学校の生徒指導記録…。「息子に何があったか知りたい。その一心で市に資料開示を求めた結果が『黒塗り』でした」。母親(57)は振り返る。いくつもの壁が長期間にわたって苦しみに追い打ちをかけた。

「指導以外に目立った介在事情は確認できず」

市教委が12年12月に設けた外部委員6人による調査委員会もその一つだった。調査委は、男子生徒が通った中学校の生徒や小中学校の教員にアンケートや聞き取りを実施し、13年9月に報告書をまとめた。

「自殺に至った背景にはさまざまな事情が複雑に関係し、一部だけを決定的要因と特定するのは困難」としつつ、「当日の一連の指導以外に目立った介在事情は確認できず、関連性は明らか」との内容だった。

報告の基になった調査記録は個人情報として開示されず、議事録の閲覧も制限された。両親は「調査委は本当に公正中立な立場で機能したのか」と強い疑念を抱き、市教委に再調査を求めたが、かなわなかった。

検討委の委員長を務めた広島大大学院の吉中信人教授(刑事法)は「結果的に納得を得られず申し訳ない」と話す。調査委は証拠収集の権限を持たず、調査手法も確立していない任意機関だとして「どうしても限界はある」と説明する。

両親は残された選択肢に頼るしかなかった。15年6月に「教員たちの不適切な指導が自殺の原因」として提訴。市は争う姿勢を示した。生徒の死からすでに28カ月が過ぎていた。

「市教委が誠実なら裁判など望まなかった」

提訴に踏み切ったものの、争うために必要となる資料にアクセスできない。市教委による資料の不開示決定の取り消しを求める訴えなど、複数の訴訟を並行させて時間を費やすことになる。最高裁が21年6月、市の特別抗告を棄却。調査委による教員への聴取記録の一部が開示され、ようやく本訴訟が動き出した。

そして、提訴から約8年を経ての和解。遺族は「市教委が誠実に対応し、事実と向き合えていたら、裁判など望まなかった」と振り返った。一方の市教委。江口和浩・学校教育部長は和解成立後の記者会見で「条例や規則にのっとって適切に判断してきたつもり」と言い切った。

被害者や遺族への情報提供は、最も基本的で重要な支援とされる。原告側弁護団長で、学校事件・事故被害者全国弁護団副代表も務める定者吉人弁護士は「資料を抱え込んだままの行政側と争う今の裁判制度は改善が必要」と強調。早期の解決が、遺族の負担軽減や速やかな再発防止につながるとし「提訴された行政側が資料公開を拒めない制度があれば、第三者委の段階でもオープンかつ核心に近づく議論ができる」と指摘する。(教蓮孝匡)

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