朝日新聞デジタル 平成28年9月29日
いじめ前兆、進まぬ情報共有 生徒自殺9件で「不十分」
水沢健一、木村司 2016年9月29日10時24分
「いじめ防止対策推進法」が施行された2013年9月以降、いじめと自殺の関係が問われた12件のうち少なくとも9件で、第三者委員会が、同法で求められている学校での情報共有が不十分だったと認定していたことがわかった。同法は28日で施行から3年が過ぎたが、3年で法の見直しを検討する規定がある。より情報共有を進める仕組みをどう作るかが、見直し論議の焦点になりそうだ。
同法は大津市の中2男子が11年に自殺した事件を機に自民、民主などが法案を共同提出し、13年9月28日に施行された。
文部科学省への取材などによると、法施行後、いじめによる自殺と疑われたケースは3年で少なくとも20件あり、小4から高3の20人が亡くなっている。
このうち、同法に基づく弁護士らによる第三者委員会が調査を終えた12件について、報告書や答申の内容を分析したところ、一部の教員でいじめの情報を抱え込んだり、学校の対策組織が動いていなかったりして、校内でいじめの情報共有ができていなかったケースが9件あった。
同法は被害者が苦痛を感じるものを全ていじめと定義。一部の教員の判断で「いじめではない」と決めることなどがないよう、教員らが担当を超えて情報を共有する対策組織を校内に常設することを義務づける。同法の運用を定めた文科省の「いじめ防止基本方針」でも、情報共有の必要性が明記されている。
第三者委の指摘のうち、長崎市新上五島町で14年1月に自殺した中3男子は作文などでいじめを示唆していたが、同委は情報を共有すべき学校の「いじめ防止対策委員会」について「具体的な活動を行った形跡は認められなかった」と指摘。14年7月の青森県八戸市の高2女子の事例では、保護者が担任にいじめを訴えていたが、すぐに学年主任に伝えるべき情報ととらえず「情報共有不足で組織的な対応ができなかった」と認定した。昨年11月に自殺した名古屋市西区の中1男子についても「ふざけ行為が組織的に協議された形跡に乏しい」とされた。
また、9件以外でも、岩手県滝沢市の中学2年の男子生徒のケースでは、第三者委が学校の対応について「生徒間でよくある、からかい、いたずらといった認識だった」と認定。法律にあるいじめの定義への理解不足を指摘した例もあった。
現在、第三者委の調査が進む8件でも、岩手県矢巾町で昨年7月に自殺した中2男子について、生徒の訴えがあったのに情報を共有できずに自殺を防げなかったとして、学校が遺族に謝罪している。情報共有の不足を指摘される事例が今後、さらに増える可能性がある。
文科省は有識者会議「いじめ防止対策協議会」で、法施行からの学校での取り組みを検証しており、10月にも論点をまとめる。(水沢健一、木村司)
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〈文部科学省の「いじめ防止対策協議会」で座長を務める森田洋司・鳴門教育大学特任教授(教育社会学)の話〉 法律が広く定義するいじめと、各教員が考えるいじめには、なおギャップがあり、問題の抱え込みもなくなっていない。情報共有が進まない背景にはこうした事情もある。いじめかどうかの判断のブレがこれまで悲劇を招いてきた。子どもの苦しみに向き合うことを後回しにせず、あらゆる情報を報告し合い、対策組織で議論していく中で教員がいじめに対応する技量も上がる。法律が定めたプロセスの徹底が不可欠だ。
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〈いじめ防止対策推進法〉 大津市の中2男子が2011年に自殺した事件を機に自民、公明、民主など6党が法案を共同提出して成立し、13年9月28日に施行。インターネット上を含め、被害者が苦痛を感じるものを全ていじめと定義。複数の教職員や専門家が情報共有して対応するための「対策のための組織」を校内に常設し、自殺などの「重大事態」は第三者委員会で調べることなどを義務づけた。