【10月8日付 河北新報】

天童市は7日、河北新報社の情報公開請求に対し、天童一中1年の女子生徒=当時(12)=が昨年1月に自殺した問題について、「いじめが自殺の主要な原因」と明記した第三者調査委員会の報告書を開示した。市個人情報保護条例に基づき、氏名などの個人情報、教育的配慮からいじめの具体的行為は黒塗りにして伏せて公開した。
報告書はA4判134ページ。実質的に(1)いじめと自殺との因果関係(2)学校の対応(3)再発防止の提言(4)自殺後の学校と市教委の対応-で構成されている。
報告書は、いじめは身体的攻撃を伴わない集団での悪口や嫌がらせ、無視、仲間はずれなどで、多大な心理的苦痛が女子生徒を自殺に追い詰めたと認定した。
いじめはクラスと部活動で継続してあったが、教師は連携を怠り、部活動で対策を取る義務の認識が欠如していたと指摘。いじめに対する教師の理解と意欲を欠き、場当たり的対応にとどまったと強調した。
個々の教員が兆候となる情報を得ながら、学校で組織的に共有する意識にも欠け、対応する組織も機能しなかったと批判した。
事実認定を踏まえ、提言は8項目に及んだ。第三者委の野村武司委員長は5日、報告書提出後の記者会見で「二度といじめにより子どもの命が失われないように、検証内容と提言を防止対策に役立ててもらいたい」と述べた。
第三者委(委員6人)は昨年11月末の発足以降、28回の部門別会議、13回の委員会を開催して報告書をまとめた。

<天童いじめ自殺>第三者委報告書要旨
報告書の内容の要旨は次の通り。黒塗りされた部分を含め、文脈から判断して補った箇所はかっこ内で示した。

【いじめと自殺との因果関係】
(女子生徒)は2013年4月、当該中学に入学した。(女子生徒の)クラスでは(加害生徒らが)女子最大グループを形成。遠慮なく大声でしゃべるグループで、(加害生徒は)人の悪口を言うことで話題の中心になろうとした。(女子生徒は)クラスではおとなしく、1人でいたり小説を読んだりすることが多かった。
グループには異質な雰囲気に思え、気に食わなかった。反応が大人っぽくクールに見え、親しく話しかけても流される感じがあり、いら立ちを覚えたと見る生徒もいる。
(女子生徒の)ちょっとしたことを捉え、悪口もあった。発言に対し、あまり表情を変えなかったが、7月上旬ごろ「私何か言われている?」と尋ねたことがあり、気付いていたと思われる。対象は(女子生徒)だけでなかったが(女子生徒)への悪口が一番ひどくなり、週2~3回はあるようになった。担任は(女子生徒)への悪口を気に掛けており、信頼できる生徒に、悪口を見掛けたら「やめた方がいいと言ってくれ」と頼んだ。担任は「(加害生徒は)問いただすと言い訳する生徒で、確証が取れないことは指導できなかった」などと述べている。夏休みが明けて悪口は継続し、11月になると常態化。黒板に書くこともあり、嫌がらせは無視する働き掛けに変わっていった。
(女子生徒)が入部した(ソフトボール部)は、1年生が三つのグループに分かれた。部活動の雰囲気に影響力を持つグループが、(女子生徒に)悪口とともに対立的な態度を取るようになった。1年生の人数が奇数で、ペアで行う(キャッチボールなど)の練習時には1人になることが多かった。(女子生徒は)6月ごろ母親に「いじめ」という言葉を漏らし、母親は担任に相談した。
7月1日の部活動中に(女子生徒)の頭部に(バット)が当たる事故があった際、両親は部活動を辞めるよう提案したが、「内申書に響くから」と退部には至らなかった。7月24日の(担任との)2者面談で、母親は部活動やクラスでの様子が心配だと伝えたが、孤立した状況の改善は見られなかった。
部活動の顧問は、特定の部員に悪口を言い、部内の雰囲気が悪くなっているとして、9月に1年生だけのミーティングを開いた。顧問は思っていることを陰口でなくみんなの前で言うよう指示した。(加害生徒を含む部員が女子生徒に)不満を述べたり、自分を変えるよう発言。(女子生徒は)「仲間外れにしないでください」「明るくなります」と泣きながら話した。
3学期始業式当日の(14年)1月7日、(友人)と一緒に登校した(女子生徒)は途中で様子が変わり、線路の方に向かった。「学校に行きたくない」「死にたい」「学校・部活・嫌だ」と言いだし、(友人に)「先に行ってていいよ」「早く電車来ないかな」と発言、「バイバイ」と手を振った。その後、午前7時55分ごろ、(JR山形新幹線にひかれ)自殺した。
本事案のいじめは「身体的攻撃」はほとんど認められず、悪口や陰口といった「言語的攻撃」と集団からの排斥といった「社会的攻撃」を中心とした「集団いじめ」と判断できる。いじめは(加害生徒)のみで行われたものでは決してなく、いじめ行為を同調・助長・加担していった周囲の加害生徒、暴走を傍観した多数の生徒や教職員がいることを忘れてはならない。
「いじめ」の傍観者のみならず、直接の加害生徒ですら「いじめ」に対する当事者意識や内省が明らかに不足していることも特徴である。学校におけるいじめが続いていなければ、(女子生徒の)自殺が生じていた可能性は非常に低いと判断でき、いじめ被害を受けたことが自殺の主要な原因であると判断できる。

【学校の対応】
本事案は、クラスと部活動の両者にまたがり起こった。当該中学は部活動を重視し、全員加入が原則で、3年間続けることを念頭に部活動を選択させる。学校生活で部活動が占める割合は大きい。部活動にもいじめ防止対策を含む安全義務がある。当該中学は、危険防止という意味の安全義務への配慮はあったが、生徒間の人間関係に起因するいじめ防止等対策義務が、意識されていたとはいえない。技術面のスキルを重視する一方、人間関係の問題は無方針で、当該中学のいじめ防止等対策の仕組みとの接合もなかった。
担任はクラスでの悪口が、部活動を含め(女子生徒に)及んでいることは容易に想像できたはずだが、相対的に情報を小さく評価し、顧問と連携したり中学全体の問題として共有したりしていない。6月中旬ごろ(女子生徒の)母親が、部活動でいじめられている、少なくとも孤立しているとの相談を担任にした。これは部活動の顧問に伝えられ、校内の教育相談・特別支援教育推進委員会に報告されたが、わずかな取り扱いだった。(母親は)7月24日の担任との2者面談で再度相談したが、担任と顧問が同委員会に報告した形跡はない。顧問らは(女子生徒が部活動で)1人になっている事実を把握しつつも大きなこととは考えず、有効な手だてを講じないまま、中途半端な指導をするだけだった。
9月の「こころの点検票」で(女子生徒は)「友達」について不安に思っているレベルを3から4に変更した。
「部活動で不安レベルが増し、友人関係で少し頑張れなくなり、とても不安」と自己評価したとうかがえる。担任は「4と出ているけど、何かあるのか」と聞いた。(女子生徒は)笑いながら「いや、大丈夫ですよ、先生」としたので、「何かあったら先生に言うように」「デイリーノートにも書いていいよ」と伝えたが、それ以上、具体的な対応は取らなかった。点検票は、問題を把握するせっかくの機会だったが、学年の教育相談主任、学年会で問題にされた形跡はない。レベルの程度に個人差があるとしても、変化には重要な情報が含まれていることは明らかで、問題を看過した理由にはなり得ない。一般に、いじめなど困難を抱えている生徒に対し「大丈夫です」との答えを引き出す問い掛けの問題点は指摘されている。「大丈夫か」と問い掛ければ、大丈夫でない場合でもあっても「大丈夫」と答えることは、今や常識。(女子生徒が)「大丈夫」と答えたことに対し、注意を要すると考えるべきだった。
【まとめ】 担任や顧問はいじめ等のリスクを評価し、起こりうる可能性等に注意を向ける必要があったが、表出した問題行動への場当たり的な対応にとどまり、その注意に欠けた。担任や顧問が(問題を)抱え込むのではなく、学校全体で共有し取り組む認識が各教員に浸透していなかった。顧問は結局、競技成績の向上を重視し、人間関係の問題に配慮せず、いじめ防止等対策が部活動でも主要課題との認識を欠いた。
(女子生徒は)謙虚に頑張るタイプで、頑張っている姿も、悩んでいる姿も表現するのが得手でなく、周囲に相談することも少なかった。それでも気になる兆候や様子など(学校が)対応をするに十分な情報が、保護者や他の生徒からの相談を含め担任、顧問、周囲の生徒等により把握されていた。しかし、情報は生かされることなく、結果的に見落とされ、いじめに対し有効な対応はなされなかった。

【提言】
(1)学校のいじめ防止等対策組織は名目的設置では足りず、防止対策などを学校全体の組織として情報を兆候事実を含めて集約し、実効性のある対応と措置ができる実質的内容を有するものでなければならない。
(2)部活動でもいじめは発生し温床となりやすいことを認識して、部活動を含む学校活動全体に対して組織的に防止対策を実施することが求められる。
(3)暴力を伴わないいじめ(心理的な嫌がらせなど)を過小評価せず、いじめが集団構造とその力関係の中で行われるものであり、日常的な悪口や嫌がらせでも被害生徒にとってはダメージが大きく深刻な事態を発生することを正しく認識した対応と措置を実践する必要がある。
(4)個別のいじめへの対応に際して、いじめの事実と兆候事実を認知した個々の教師が自分だけで情報価値の重みを判断し、取捨選択することなく全ての情報を共有すべきである。
(5)いじめを受けている子どもの中には周囲に相談せず、苦痛を表せず大丈夫だと振る舞う子どもがいること、人に伝えたときはいじめが進行していることを踏まえ、ささいな変化に留意し、子どもを守るための適切な対応を取ることが必要である。
(6)加害生徒への指導に当たっては、いじめであるかどうかに固執して認めさせ、単に叱責したり謝罪させたりするのではなく、自己の行為が相手に与える傷付きや苦しみを真に実感できるような認識に至るべく働き掛けることが重要。
(7)いじめについての相談、対応などを記録し、対策組織で共有し、対応が検証可能となるよう、記録を保管整理すべきだ。
(8)いじめの対応と解決を図る際には、いじめられた子どもの主体性と参加を重視し、適切な情報提供に努め、その意向を踏まえた対応が必要である。

【女子生徒自殺後の学校と市教委の対応】
市教委と学校は遺族から求められて情報開示と説明を行う受動的な対応が多く、遺族への情報提供の重要性に対する認識不足が感じられる。遺族に対し早期の段階で、いじめの調査や生徒アンケートの実施方針や結果報告の方法を示すべきだった。
市教委と学校は(自殺2日後の1月9日)、いじめの可能性が見えたら第三者委員会を設置する意識があり、原因を決めつけず対応したのは適切だった。いじめの存在を疑わせる警察情報や、いじめが記載されたノートの存在が指摘され、1月15日に第三者委設置に向けて具体的に動きだした対応は問題ない。
設置の際は遺族の意向を反映させる必要があるが、意見聴取の時間的余裕が与えられていたかは疑問が残る。
市教委は第三者委の要綱、委員の人選について、遺族が意見を1回でまとめて提案できるよう詳細に説明するなど、遺族とともに調査を進める姿勢を鮮明にすべきだった。結果的に遺族から要綱改定の要求が複数回出され、委員会活動が開始されるまで(自殺から)11カ月を要した。

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