平成31年4月23日付朝日新聞
いじめ放置の教員処分案、消える 対策法改正に遺族反発
いじめ防止対策推進法の改正案について、いじめが原因の自殺で子どもを失った遺族らから批判の声が上がっている。超党派の国会議員勉強会の座長・馳浩元文部科学相が4月に公表した改正案では、検討されていた「いじめを放置した教員の懲戒処分」「学校側がいじめ防止の基本計画を策定」などの内容がなくなったためだ。馳氏らは学校側の負担増などを懸念
したとみられるが、遺族らは「誰を守るための法律なのか、考えてほしい」と反発している。
「一体どちらを向いて法律を作っているのか。座長試案を見直してください」。いじめによる自殺で一人娘を亡くし、いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」理事の小森美登里さんは22日、文科省内で会見して訴えた。隣には、他の遺族ら5人が並んだ。
19日にも、いじめ自殺の遺族ら43組の連名で、座長試案に反対する意見書が馳氏へ手渡された。2011年に中学生の子をいじめ自殺で亡くした父親は「学校のガバナンスができていなかったから、いじめ死が起きたと私たちは考えています」と語った。
13年9月に施行された同法には「3年後の見直し」を検討する規定があるが、議員の勉強会が動き始めたのは昨年。総務省が同年3月、「学校がいじめの限定解釈をする事例が多い」として、文科省に対して改善するよう勧告したことを受けたものだった。
勉強会は遺族らのヒアリングなどを行い、同年12月までに改正イメージ案を公表。学校側にいじめ防止の基本計画のほか、対策委員会の設置など対策強化を求める条文が入り、遺族らも歓迎していた。しかし、4月の座長試案では、これらの項目が消えた。馳氏は「自治体の財政状況や地域の実情を考慮し、教員を威圧するような表現は控えた」と説明する。文科省が教員の負担軽減を重要課題に挙げていることも影響したとみられる。
遺族らは納得していない。22日の会見に参加した教育評論家の尾木直樹氏は「試案は現行法より後退している。学校現場にとって最も大切なのは子どもの命。ここを押しやったら、働き方改革も何もあったものじゃない」と批判した。(矢島大輔、編集委員・氏岡真弓)
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◆いじめ防止対策推進法 大津市の中2生が2011年に自殺した事件を機に、自民、民主など6党が共同提出し、13年9月に施行された。被害者が苦痛を感じるものを全て「いじめ」と定義し、学校に事実確認と教育委員会などへの報告を義務づけているほか、被害が大きい場合は「重大事態」とし、第三者委員会などによる調査を求めている。ただ、施行後も子どもの自殺は続き、第三者委がなかなか設置されなかったり、人選の偏りが問われたりする事例が相次いでいる。