平成29年8月25日朝日新聞青森版
いじめ自殺から1年、調査今も
葛西りまさんの写真を見ながら話す父親の剛さん=青森市
葛西りまさんが亡くなったJR北常盤駅には、りまさんの好きなバラの花束が供えられていた=藤崎町
亡くなった葛西りまさん=遺族提供
県内の中学生2人が、いずれもいじめを訴える文書を残して自殺して1年になる。第三者委員会による調査が
行われたが、認定された「背景」や「原因」に、それぞれの遺族が強く反発。やり直しの調査が今も続いている。
青森市立中2年だった葛西りまさん(当時13)は昨年8月25日午前10時ごろ、JR奥羽線北常盤駅で電車に
はねられ死亡。スマートフォンに「もう、二度といじめたりしないでください」と書き残していた。東北町立中学1年
だった男子生徒(当時12)は同月19日午前5時半ごろ、自宅の小屋で自殺しているのが見つかった。自室には
「いじめがなければもっと生きていたのにね」と書かれたメモが残されていた。
青森市と東北町の教育委員会は同年9月から有識者らによるいじめ防止対策審議会で、それぞれ事実関係を
調査。どちらもいじめがあったと認定した。ところが、自殺の「背景」や「原因」をめぐり、遺族との見解の相違が
あらわになった。
りまさんの問題では3月、報告書案が自殺の背景の一つとして「思春期うつ」を挙げたことに、遺族が「根拠がない」
と強く反発。一部の委員の解任や再調査を求めた。最終報告が出されないまま、任期満了を理由に委員全員が
退任。新たな委員はまだ6人中3人しか決まっていない。
昨年12月に答申された東北町の最終報告書は、自殺の原因について、本人の特性や思春期の心性など様々な
背景が複合的に関与していたと判断。これに対し、遺族は「(調査に)不審な点が多い」として、町長に再調査を要請
した。これが認められ、3月に町長直轄の再調査委員会が立ち上がり、関係者への聞き取りをやり直すなどしている。
■初動きちんと 子ども目線で
大津市の中学生いじめ自殺をきっかけに、2013年いじめ防止対策推進法が成立し、学校や自治体などに客観的
な事実を明らかにする迅速で公平な調査が義務づけられた。しかし、調査方法やその内容に遺族が異議を唱える
ケースが全国で相次いでいる。
いじめで自殺した子の遺族らでつくる川崎市のNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」理事の小森美登里さんに
よると、同法が定めているにもかかわらず、初動調査が遅れたり、遺族との情報共有を怠ったりする場合が多いという。
小森さんは「教育現場に法律が浸透していない」と指摘したうえで、「遺族は学校で何があったかを知りたいだけ。
初動調査がきちんとしていれば第三者委も必要ない」と話す。
一方、13年に神奈川県内の中学生が自殺した問題で、第三者委の委員長を務めた小林正稔・神奈川県立保健
福祉大教授(コミュニティ心理学)は、遺族の希望通りでなくても、理解してもらえる調査をすることが大切だと指摘する。
「原因を明らかにすることではなく、遺族や子どもと同じ目線で考え、どういう状況だったのかを明らかにすることが、
再発防止のために最も大切なことだ」と話した。(山本知佳)
■報告案「根拠ある説明ない」葛西さん父親
葛西りまさんが亡くなって25日で1年。父・剛さん(39)に現在の思いを聞いた。
遺骨は、居間にある仏壇横の棚に置いたまま。剛さんは「まだ受け入れられない、認めたくないという思いがあります」
と話す。
棚を埋め尽くすのは、ポップコーンやチョコレート、ミッフィーのぬいぐるみ、バラの花……。すべて、りまさんが好き
だったものだ。買い物に行くとつい買ってしまう。母と姉は、季節ごとにりまさん用の新しい靴や洋服を買い、今月も
紺色のワンピースを買ったばかりだ。
いじめの調査には積極的に協力した。ただ、聞き取りの際、複数の委員のうち質問をするのは1人だけで、「真剣に
聞いてくれているようには見えなかった」。それでも、最後にはしっかりした報告書が出てくると信じていた。
それだけに、報告書案に記されていた「思春期うつ」という言葉に衝撃を受けた。説明を求めても、納得できる根拠は
なかった。「何があったかを知りたいだけなのに、説明できないまま委員の任期は終わった。(真実とは)別の結論を
つくっているようだ」。声に力が入る。
新しい委員もまだ半数しか決まっていない。「(調査が)いつ始まるのかもわからない。市教委には怒りしかない」