平成30年5月5日付朝日新聞宮城版

いじめ自殺進まぬ調査 仙台中2男子死亡から1年

 仙台中2男子

前回のいじめ問題専門委員会=4月9日、仙台市青葉区

2014年以降、いじめを受けた中学生3人が自殺した仙台市。2年の男子生徒が亡くなってから4月26日で1年が過ぎた。教師から体罰を受けていたことも明らかになるなか、関係者への調査は今も続く。原因究明の遅れに遺族側は落胆を隠せない。

「なるべく速やかに真相を明らかにし、再発防止につながるような結論を得るよう委員会にお願いしたい」。郡和子市長は4月24日の定例記者会見で、この1年の取り組みを問われ、こう述べた。

昨年の自殺を調査しているのは、学者や弁護士ら第三者でつくる市教委の「いじめ問題専門委員会」。自殺に至った原因、防げなかった理由、再発防止策について答申を出す予定だ。

ただ現状は、通っていた市立中学の生徒や教職員らに委員が聞き取りをする段階にとどまっている。

4月9日の前回会合で、聞き取り対象の教職員38人中37人、生徒・保護者13人中8人の調査を終えたことが報告された。だが、教職員のうち、10人は時間の制約で調査が不十分だったとして、再聴取が決まった。答申に向けた、とりまとめのめどは立っていない。

なぜ調査が遅れているのか。専門委の委員の辞任が相次ぎ、後任の人選に時間がかかったことが一因だ。このため実質的な議論が始まったのは昨年12月。自殺から約8カ月たって、ようやく調査を年明けに始めることを決めた。

川端壮康委員長は4月の前回会合の後、「スタートが遅れているので、できるだけスピード感をもって」としつつ、「拙速はいけないので十分な真相究明」が必要と説明した。

遺族は4月25日に発表した談話で、「市長や委員長の『スピード感を持って調査する』との言葉は何だったのかと思う毎日」「なかなか進まない調査で、不安な日々を送っています」「とても一周忌に子どもへ順調に協議がなされているとは報告できない」と訴えた。

16年2月の中2男子の自殺は、再調査の方針が決まっている。市教委の第三者委が昨年3月に答申を出したものの、自殺に至る詳細な経緯が分からないとする遺族側の求めで、新たに「いじめ問題再調査委員会」を立ち上げて実態解明を進めることになった。

昨年9月以降、再調査の進め方などを話し合ってきたが、今年2月の会合では、遺族推薦の委員が委員長らを批判する発言を続け、委員長が協議を打ち切った。3月の次の会合では「調査をしっかりと進めていただきたい」との郡市長のメッセージが読み上げられる中、自殺した生徒の同級生や同じ部活の生徒へのアンケートや聞き取りを検討することでまとまった。

対策次々 体罰やまず

相次ぐ自殺を受け、いじめ防止に向けた新たな施策が始まっている。仙台市は4月、専門部署「いじめ対策推進室」を新設。18年度予算でも対策に重点的に配分し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)での相談体制や、弁護士が学校の相談にのる「スクールロイヤー」などの事業を始める。いじめ防止条例も制定を目指し検討を進めている。

次々と対策を講じる一方で、4月の「いじめ対策等検証専門家会議」で、ある調査結果が報告された。

昨年4月に自殺した生徒が体罰を受けていたことを踏まえ、市と市教委が市立のすべての学校を対象に、児童・生徒、保護者に体罰の有無などを尋ねるアンケートをしたところ、体罰が49件確認された。

昨年9月には、中学校の男性教諭が授業中に私語を続ける男子生徒2人の口に養生用のテープを貼っていた。昨年自殺した生徒は別の中学だったが、教諭から粘着テープを口に貼られるなどの体罰を受けており、同様の体罰が繰り返されていたことになる。

この会議は昨年の自殺を受けて設置。いじめや体罰の防止策について専門家が議論を続け、1月には第1次提言を出している。

アンケート結果について木村民男会長は「いろんな通知を出し、研修の機会を設けているが、先生が主体的に取り組むまでに浸透していないのではないか」と指摘。数々の研修に現場が疲れ、受け身になっている恐れがあるとして、「どんな方法なら学校が動き出すのか、(対策を)まとめていきたい」と語った。

(高橋昌宏)

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