2022年11月17日熊本日日新聞

いじめ関与の生徒名、熊本地裁が県に開示命令 県央の高3自殺巡る訴訟

県の第三者機関がまとめた調査報告書の黒塗り部分を示す遺族=10月中旬、熊本市中央区

2013年4月にいじめを理由に自殺した県央の県立高3年の女子生徒=当時(17)=の遺族が県と同級生8人に計約8340万円の損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁が県に対し、いじめに関与した同級生らの名前を黒塗りする前の「いじめ調査報告書」の提出を命じたことが16日分かった。県は命令を不服として、福岡高裁に即時抗告している。

女子生徒の自殺を調査した県の第三者機関は15年1月、「いじめが自死の要因の一つ」とする報告書を公表。いじめに関わった生徒の名前が黒塗りだったため、詳しい事実関係は遺族も分からなかった。遺族は21年5月、「真実を知りたい」として提訴した。被告の生徒8人は自ら

調べて特定した。

遺族側は21年8月、生徒の名前が黒塗りされていない調査報告書の開示を求める文書提出命令を地裁に申し立てた。これに対し、県は「公務員の職務上の秘密に関する文書であり、公務の遂行に著しい支障を生じる恐れがある」として申し立ての却下を求めた。

地裁は22年5月、「遺族が事実関係を正確に知りたいと思うのが当然の心情」とし、全てを開示した調査報告書の提出を県に命令。調査対象者の中で、信頼関係を損なう可能性がある証言者の名前は除くとした。「外部の者に開示される場合とは異なり、遺族との関係では秘密性は低い」とも指摘した。

訴状によると、女子生徒は体育大会のダンス練習の際、複数の同級生から「なんで踊れんと」などと中傷され、自殺。遺族は「いじめ行為で死を選んだことは明らか」と主張したほか、学校側もいじめを把握しようとせず、安全配慮義務を怠ったと訴えている。(臼杵大介)

遺族「いじめた側を守るのは納得できない」

いじめに関わった生徒名の開示を巡り、自殺した県立高3年の女子生徒の遺族は「いじめた側を守り、子どもを失った側が守られないのは納得できない」と主張する。一方、県は今後のいじめ調査に影響を及ぼしかねないとして、開示命令を拒んでいる。

県の第三者機関が公表した調査報告書は、いじめに関わった生徒の名前が黒塗り。遺族はほかの生徒らに聞き取るなどして、被告の同級生8人を特定した。住所は同窓会名簿で調べた。

ただ、報告書が黒塗りのため、誰がどんな関与をしたのか分かっていない。

県は熊本地裁に意見書を提出し、名前を開示しない理由を説明。調査報告書が訴訟の証拠になると想定していないことや、今後起き得る同様の事態を十分に調査できなくなる恐れがある

ことなどを挙げた。

これに対し、遺族代理人の阿部広美弁護士は「抽象的な危険を理由に情報が隠蔽されるのは不当。加害者を守るような対応は、いじめ被害の根絶につながらない」と県を批判する。

子どもの自殺を巡る和水町や熊本市の調査に第三者の立場から関わった元教諭の河崎酵二さん(73)=宇城市=は「第三者機関に強い調査権はなく、協力を得るにはプライバシー保護への配慮が必要。個人名を公にするのと遺族に開示するのは別問題だと思うが、簡単に答えは出せない」と説明。「調査の当初段階から遺族に寄り添っていれば、争いにならなかったかもしれない」と、県の調査のあり方に疑問を投げかけている。(臼杵大介)

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