平成28年10月2日 朝日新聞社説

いじめ防止法 「形」だけでは機能せぬ

  「いじめ防止対策推進法」が施行されて3年たった。

 今もなお、いじめられて命を絶つ子どもが後を絶たない。

 法は施行後3年で見直しを検討する規定があり、文部科学省の有識者会議が議論している。

 子どもの命にかかわる問題だ。きちんと検討してほしい。

 防止法は、2011年に大津市の中学2年生が自殺した問題を受けてつくられた。

 特徴は、学校や自治体に対し防止や対策のための「形」をつくるよう求めたことだ。

 例えば学校がすべきこととして、「いじめ防止基本方針」を掲げ、対策組織を設けるよう義務づけた。

学校全体で方針を立て、情報を共有して取り組むのが狙いだった。

 ところが、それらが機能していない現実が明らかになった。

 防止法の施行後、自殺を受けて教育委員会などが設けた第三者委員会による報告12件のうち、少なくとも9件が、学校での情報共有が不十分と認めた。

 教員がいじめと考えなかったり、一人で抱え込んだり、学校全体で取り組む認識が浸透していなかったり。それぞれの報告が指摘する問題点だ。

 自殺の起きていない他の学校はどうか。各地の学校の基本方針は自治体の方針の焼き直しが多く、校内でどこまで議論したかわからないものが目立つ。

 いじめの相談に対応できない教員が珍しくないとの指摘がある。多忙で会議をなかなか開けないとの現場の声もある。

 基本方針や組織が働かない背後には、複雑な要因が絡み合っているに違いない。

 自校でのいじめの前例をもとに話し合う。教委や学校で研修を企画する。教員の事務仕事を減らす……。

有識者会議は、そんな改善策も議論してほしい。

 法のもう一つの特徴は、自殺など深刻な事態が起きた時、どう対処するかを定めたことだ。

 法は速やかに教委や学校の下に組織を設け、子どもへのアンケートなどの調査をするよう求めている。

保護者に情報を適切に提供することも盛り込んだ。

 だが、調査が遅れる事例が少なくない。学校が情報を伏せ、遺族と対立する構図もある。

 事実を確認しなければ問題を把握できない。なぜ我が子が亡くなったか知りたい遺族に最大限応えるのは基本的なことだ。

 教員が子どもの変化に気づく力をどうつけるか。チームワークをどう組むか。保護者にどう向き合うか。

いずれもいじめに限らない学校教育の課題だ。そこまで突っ込んで検討してもらいたい。

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