令和元年5月24日付東京新聞
前橋・高2女子死亡 県いじめ対策委 遺族要請も委員交代せず
制服がかかったままの部屋=前橋市で
前橋市の県立勢多農林高2年だった伊藤有紀さん=当時(17)=が2月に自殺したとみられる問題で、県教育委員会が第三者として依頼した県いじめ問題等対策委員会の委員1人について、父親(63)が公平・中立の観点から交代を要請したものの、実現していないことが23日、分かった。文部科学省の「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」は、第三者委による調査の公平・中立性などに対する遺族の要望を「十分に配慮する必要がある」と求めている。 (菅原洋、市川勘太郎)
高校時代に笑顔を見せる伊藤有紀さん=遺族提供
「県教委の対応に納得できず、不信感が募る。娘を亡くして絶望しているのに、つらさに追い打ちを掛けられた」。父親は目を潤ませながら声を絞りだす。
父親が問題にするのは、五人いる委員のうち一人が桐生市で二〇一〇年に小学六年の女子児童が自殺した問題で、この調査委の委員を務めた事実だ。報告書はいじめが自殺原因の一つと認めながらも、両親から聞き取りせずに「家庭環境などの要因も加わった」と指摘。両親が強く反発した経緯がある。伊藤さんの父親は「人道的な調査ではない。両親から話を聞いていないのに、どうして家庭環境も指摘できるのか」と疑問を投げ掛ける。
父親は県教委の対策委には五人全員に不満がある。委員三人は前身の委員会の設置当初の一一年から委員。うち一人は県の審議会や別の委員会でも長年委員を務める。別の審議会で長年委員を務める人もいる。県の委員ではそれぞれ報酬が出ている。残る委員も県内の公職を務める。
全国では、いじめの第三者調査に対して公平・中立の観点から厳しい批判が続出し、各地で遺族側から第三者委の委員を地元以外から推薦するなどの動きが相次いでいる。
父親は「県から長年報酬を受け取ったり、県などと付き合いがあったりする人が、公平・中立にできるのか」と語気を強めた。
父親は今月上旬に県教委へ委員の交代を電話で求め、十七日に県教委を訪れたが、「特定の委員を除外しない」などと文書で回答があった。県教委の総務課は「桐生の委員会と委員一人が重なる事実を確認したが、父親が求めた事実関係を調査したものの、確認できなかった」と述べた。
県教委は二十二日夜、二回目の対策委を開き、父親から委員交代の要請があった件を報告。本年度をめどに報告書などを出せるように目指す。
三月末に同校による基本調査で一部でいじめがあったと認めたが、父親は「学校は都合のいいことは認めて後は認めない。不十分」と批判している。