2020年3月31日付東京新聞
前橋・高2死亡 いじめ新認定なく、遺族憤り 対策委が調査経過報告書
前橋市の県立勢多農林高二年だった伊藤有紀さん=当時(17)=が昨年二月に自殺したとみられる問題で、県教育委員会が有識者らに依頼した県いじめ問題等対策委員会による調査経過報告書の内容が三十日、判明した。ただ、遺族が求めているいじめの新たな認定や死との因果関係は含まず、聞き取りやアンケートの回答内容すらも入っていない。遺族は取材に「一年間かかってこの内容とは、遅過ぎる。イライラが募る」と憤っている。(菅原洋)
◆死との因果関係含まず「再調査要請も」
関係者によると、報告書は約十ページ。弁護士、精神科医、臨床心理士ら計約六人の委員が、昨年四月から今月まで十三回開いた会合や聞き取りなど調査の日程を羅列している。
聞き取りは有紀さんの両親、教職員十一人、クラスの生徒十三人、中学時代の友人ら六人、有紀さんが通院したとみられる医療機関の二人、県教委職員四人に実施した経緯を記した。
アンケートはクラスの生徒三十八人、部活動で関係があった生徒二十人に配布。回答はクラスで二十一人、部活動で九人からあったという。
今後の対応については「引き続き検証作業を行うとともに、死亡に至る過程や心理の検証、再発防止策について審議していく予定」と記載。「なお、最終的な調査報告書については、検証結果や再発防止に向けた提言を整理した上、あらためて報告したい」と記し、最終報告の時期やその見通しも触れていない。
有紀さんの父親(64)は聞き取りやアンケートへの協力者が少ない点に「学校が当初、生徒たちに娘の件について口止めし、子どもたちが萎縮しているからではないか」と指摘している。
有紀さんの死を巡っては、学校が一年前に基本調査結果を公表。亡くなる約二週間前、ホームルームの時間にクラス発表の配役を打ち合わせ、ヒロイン役となった有紀さんに対して生徒が複数の否定的な発言をした。学校はこの点については、いじめと認めている。
しかし、打ち合わせ後の当日、有紀さんが生徒から「死ねばいいのに」と言われたと訴えている点や、一年時に醜いハダカデバネズミに似ていると言われたという訴えを含む二十数枚のメモに書き残した点は、いじめと認めていない。
父親は「(いじめ委の最終)報告に時間がかかっているだけに、学校の調査から進展がないと受け入れらない。いじめを新たに認め、死との因果関係も認定してもらわなければ、再調査の要請も考えたい」と強調している。