2021年2月17日付東京新聞

前橋・高2自殺 報告書の全文判明 重要証言削除し送付 遺族「都合悪い部分隠蔽では」

伊藤有紀さん(遺族提供)

伊藤有紀さん(遺族提供)

 前橋市の群馬県立勢多農林高二年だった伊藤有紀さん=当時(17)=が二〇一九年二月に自殺した問題で、県教育委員会が設けた有識者の県いじめ問題等対策委員会がまとめた調査報告書の全文が分かった。県教委は当初、死に関連した複数の重要な証言や指摘を削除して一部だけを遺族に送付した事実が判明。父親(65)は取材に「非人道的なやり方だ。最初から全文を渡すべきだった。都合の悪い部分を隠蔽(いんぺい)したと感じる」と厳しく批判している。 (菅原洋、市川勘太郎)
 報告書の本文の全文は七十一ページだが、昨秋に遺族へ送付したのは二十八ページ。このため、父親は県教委に全文を情報公開請求し、今月上旬に全文が公開された。
 この問題では、報告書は一九年一月にクラス発表の配役を巡り、同級生の言動に有紀さんへのいじめがあったと認定した。
 しかし、いじめの言動があった同じ日に、有紀さんが「死ねと言われた」と訴えたことは証言がないとしていじめと認めなかった。有紀さんはその二週間後に亡くなった。
 この訴えについて、全文では「同級生が『死ね』みたいなことを言っていた。(有紀さんに)聞こえてたような」との証言があるが、当初の送付分では削除。別の同級生が「『死ね』のフレーズは使用したかもしれない。(有紀さんには)直接言っていない」と証言した部分も削除された。
 父親は「娘に『死ね』と言った同級生らが有識者の調査に素直に認めるわけない。この証言は遺族にとって重要だ。削除したのは許せない」と語気を強めた。
 さらに全文では、有紀さんが「亡くなる当日かその少し前か、三〜四人の友人に『私もうすぐで死んじゃうのかな』と言っていた」との証言もあるが、当初の送付分では削除。父親は「娘のSOSだったのではないか」と声を震わせた。
 一方、有紀さんは自殺未遂をしていたが、把握した学校側が県教委への報告などを怠っていた事実が既に判明している。
 全文では提言で自殺未遂に触れ「学校の組織的な事後的対応が不十分であったことは、自死防止の観点から問題があった」と指摘。当初の送付分ではこの指摘も削除された。父親は「教育委員会や学校にとって都合の悪い部分を隠蔽したのでは」と憤っている。
 県教委によると、報告書の全文を当初は送付しなかったのは、有識者の委員会による判断。県教委が削除し、要点を遺族へ送った。情報公開で全文を開示したのは、条例などに基づいた県教委の判断という。担当者は「削除は意図的ではない。結果的に(遺族にとって重要な部分は)残らなかった」と説明している。
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