2022年11月4日毎日新聞
剣道部顧問、不適切な指導で女子高生自殺 学校側「異例」の謝罪
和解は10月25日付。遺族の代理人を務めた迫田登紀子弁護士(福岡県弁護士会)によると、いじめや校内での事故は学校が情報を出さなかったり、責任を認めなかったりすることが多く、学校側が自らの非を全面的に受け入れるのは非常に珍しいという。
これに対し、別の顧問の男性教諭は侑夏さんに「貴様やる気あるのか」などと暴言を吐くようになった。
他にも、必要以上に竹刀で突く▽部員の前で突き倒して転倒させる▽「この野郎」などと怒鳴り声や罵声を30分以上浴びせる――などを続けた。侑夏さんは、男性教諭に足を踏まれて小指の爪がはがれ、両手首には暴行によるものとみられるアザができていた。
8月29日、侑夏さんは「死ぬために部活休んだ」と自身のツイッターに投稿した後、自ら命を絶った。
学校側は9月、校長と顧問の男性教諭2人が遺族と面会し謝罪。21年7月には、学校内での災害に見舞金を支給する独立行政法人「日本スポーツ振興センター」が、自殺の原因は「教員による不適切な指導によるもの」と認定し、遺族への見舞金支給を決定した。
遺族側は22年3月、学校側に損害賠償を求めて提訴する方針を伝えると、学校側は不適切な指導を認め、遺族に改めて謝罪。訴訟外での和解に至った。
双方の合意内容によると、学校側は男性顧問による不適切な指導が自殺の原因と認め、真摯に謝罪。再発防止策として、全教職員を対象にした年1回の研修などを実施する。
記者会見で母親は侑夏さんについて、手伝いを頼んでも断ることはなく、誕生日にチーズケーキを焼いてくれるなど「優しく温かい子だった」と振り返った。学校側の対応には「今後、しっかりと果たされるか見守っていきたい」とし「教師も親もまさか子どもが自死するなんてと考えがちだが、より身近な問題と受け止めてほしい」と訴えた。
一方、博多高の肥後忠俊教頭は毎日新聞の取材に「教育機関としてあってはならないことで、二度と起こらないよう全職員一丸となって再発防止に取り組む」とコメントした。男性顧問2人は侑夏さんの自殺後、すぐに顧問から外れ、21年度以降は同高にいないという。2人への処分については「個人情報で答えられない」としている。
識者「非常に珍しい例」
学校事故に詳しい名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)は「非常に悪質な事案だが、生徒の死亡後に学校が問題を受け止めており、その対応の限りでは評価できる」と述べた。類似のケースでは「子どものための指導」として、学校が非を認めないことも多いといい「学校と遺族が訴訟などで対立することがほとんどで、今回は非常に珍しい例では。学校は再発防止を形骸化させず、実施してほしい」と注文を付けた。
内田氏によると、部活動における顧問の問題行動は、子どもや保護者が言いにくい状況にあるという。
「顧問には子どもを試合に出す権限などがあるほか、問題が公になった場合にチームメートに迷惑がかかることを考え、当事者は声を上げにくい。周囲の教職員が問題提起できるよう、風通しの良い職場環境が重要だ」と指摘した。【平塚雄太】