平成30年7月3日 神戸新聞
多可町・小5女児自殺 いじめSOS、学校見逃す
第三者委員会の会見には多くの報道関係者が詰め掛けた=2日午後、兵庫県多可町中区中村町(撮影・笠原次郎)
昨年5月に自殺した兵庫県多可町の小学5年の女子児童=当時(10)=は、いじめに苦しんでいることに、いくつかのサインを出していた。第三者委員会は、女児が「いびつな社会関係」の女子グループで仲間外れや蹴られるなど継続的な心身の嫌がらせを受けていたにもかかわらず、学校はSOSを見逃し、積極的な関与ができなかったと問題視。自殺の予見は難しかったとしながら、組織的な対応の重要性を強調した。
自殺した直後、学校側は「女児からいじめの訴えはなかった」との見方を示していたが、ほかの児童から指摘があったほか、女児が4年時のアンケートで3回、いじめの有無を問われ、「はい」に○を付けてから消し、「いいえ」に○を付けた形跡があった。ストレス状態を測る年2回の「ストレスチェック」でも高いストレスへの移行がみられていた。
第三者委は、学校がアンケート結果などを生かせず、担任がほかの児童のケアに気を取られるなど表面的な対応にとどまったため、女児の苦痛をキャッチできなかったと指摘。見逃しの要因として、いじめの組織的対応が未整備▽前思春期の発達段階にある女子グループの理解不足▽学校の統廃合による教職員の多忙-の3点を挙げた。
亡くなる直前、自殺を引き留める内容のサイトを検索したり、時期は不明ながら「死にたい、でもこわいの苦しい」と書き残したりしていた。臨床心理士は年齢や読んでいた本などから「死を現実的なものとして捉えなかった可能性もある」などと言及。精神科医は「心理的に追い詰められたのだろうが、うつ病の傾向もなく、自殺行動の直接的な原因は明確でない」とした。
調査報告を受け、岸原章教育長は「どういう思いで疲弊していったかが分かった。第三者委の提言に応えるよう努力する」と発言。国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に沿って対応してきたものの、遺族が再調査を求めたことには「一定の理解をいただいたと思っていた。ご家族の連絡を待って対応を考えたい」とした。(長嶺麻子)
◇学校の責任大きい
【全国学校事故・事件を語る会(事務局・たつの市)の内海千春代表世話人の話】いじめを個別のエピソードではなく、児童間の関係性に着目した点は評価できる。一方で、遺族が再調査を要望しており、どれだけ『事実を知りたい』との願いを踏まえた調査ができていたのか疑問が残る。教員間の引き継ぎや校内の体制も大きな課題。小学4年時にいじめのサインがありながら組織的な対応ができず、5年時も見逃した学校側の責任は大きい。いじめに向き合う姿勢が足りていないと言わざるを得ない。
【いじめの重大事態の調査に関するガイドライン】いじめによる重大事態への対応で、被害者や保護者らの意向を全く反映しない調査の進行や、調査結果が提供されないケースがあったことから、2017年3月に文部科学省が策定。自殺事案では遺族に寄り添って調査を進めるなど、学校や設置者の基本姿勢を示しているほか、第三者による調査の進め方や、調査結果の説明、被害児童生徒の支援、加害児童生徒への指導など、対応法を指南する。
兵庫県多可町で小学5年の女子児童=当時(10)=が自殺した問題で、同町教育委員会が設置した第三者委員会は2日、いじめを自殺の要因と認めた。報告書で「表面的な対応にとどまっていた」と指摘された町教委は同日の会見で、第三者委の提言を受け、小中学校にソーシャルワーカーを導入するなど再発防止に取り組む姿勢を示した。
会見の冒頭、頭を下げて謝罪した岸原章教育長ら町教委の4人。再発防止策について岸原教育長は「学校に専門的な人に入ってもらい、チームでやることが必要」と述べ、小中学校にスクールソーシャルワーカーを配置する方針を示した。
学校は、女児の異変について情報を組織で共有せず、学年をまたいだ引き継ぎもできていなかった。今後は引き継ぎの様式や内容などの基準を定める。
報告書は町教委が遺族の了解を得た上で町ホームページで概要版を公表する。
女児のSOSを学校が把握できなかったことについて、報告書は小学校の統廃合に伴う教職員の多忙も指摘した。岸原教育長は「統合前の交流学習や教員の負担軽減もしてきたが、もっと配慮すべきことがあったと思う」とした。
1日夜には全校児童の保護者会が開かれ、104人が集まった。参加者からは「学校で子どもが加害したことは知らせてほしい」との意見があったという。
第三者委の報告を受け、女児が通っていた小学校の校長は報道陣の取材に「ご遺族に本当に申し訳ない。もっと早くSOSをキャッチし、適切な対応をすれば命を守れたのでは」とうなだれた。
吉田一四町長は「二度と痛ましい事案が起こることがないよう教育委員会と連携し、再発防止に全力で取り組む」とのコメントを発表した。(森 信弘)