平成30年12月9日付朝日新聞デジタル
奄美の中1自殺、担任の誤解による指導が原因 第三者委
鹿児島県奄美市で2015年11月、市立中1年の男子生徒(当時13)が自殺し、その問題を調べていた第三者委員会が9日、報告書をまとめ市に提出した。生徒をいじめの加害者と思い込んだ担任教諭による指導と家庭訪問によって、心理的に追い詰められた末の自殺と認定。対応を担任に一任し、十分な事実確認をしなかった学校側の対応についても「拙速で不適切な指導につながった」と厳しく批判した。
市が設けた第三者委(委員長=内沢達・元鹿児島大教授)は弁護士や精神科医ら6人で構成。17年5月から学校関係者や当時の生徒らに話を聞き、22回の会合を重ねた。
報告書によると、男子生徒は15年11月4日、同級生に嫌がらせをしたとして、他の生徒4人とともに担任から「(同級生が)学校に来られなくなったら責任をとれるのか」などと叱責された。下校後、事前の連絡なく家庭訪問をした担任が帰った直後、遺書を残して自宅で自殺した。
生徒が指導の対象となったのは、嫌がらせを苦に学校を欠席した同級生に提出させた「嫌なこと」の中に、悪口を言った1人として名前が出たためだった。
実際は、生徒が発した方言が悪口のように誤解されただけで、第三者委が「いじめとは到底いえない」とする内容に過ぎなかった。生徒は約2カ月前にも担任から同じ内容で謝罪を強いられたが、同級生を遊びに誘うなど気遣っていた。一連の指導に「意味が分からん」と周囲に不満を述べていたという。
報告書は、まじめで責任感が強かった生徒にとって、責任を問う担任の叱責(しっせき)は「心の重荷」になったと分析。さらに家庭訪問で親に言うほどの問題だと思わされた上、家庭訪問の際に生徒にかけたとされる「誰にでも失敗はある」との言葉で、自分の気遣いなどが否定されたように感じたのだろうと指摘。こうした担任の対応が生徒を「(心理的に)追い詰めたことは明らかで、自殺の原因」と結論づけた。
9日の記者会見で、第三者委のメンバーは、いじめが疑われる事案の基本とされる学校として組織での対応がなかった点について、「一人でやると思い込みにつながる」と指摘。
自殺翌日、市教委が「いじめた側が責任を感じて自殺」と関係者に説明した点にも触れ、学校側の責任を回避する意図があった可能性も示唆した。
内沢委員長は「教師はいつも正しいという見方を改めてほしい。市教委や学校自らが検証しないと同じことが繰り返される」と訴えた。
遺族は「息子がいじめに関わった訳ではないとの報告に安堵したが、まだ心の整理ができていません」とのコメントを発表した。(外尾誠)
「善意」で誤った指導、子どもの自殺招く 懸念が現実に
鹿児島県奄美市の男子中学生の自殺を調査した第三者委員会が強く訴えたのは、「生徒の立場に立った指導をしなかったことが問題の本質」ということだ。委員長の内沢達・元鹿児島大教授は「子どもへの向き合い方を根本から変えていかなければ、また同じようなことが起きる」と危機感をあらわにした。
2013年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」は、学校側が子どものSOSに気づかないまま、「トラブル」だと過小に扱った結果、いじめによる自殺といった悲劇が起きたという反省から生まれた。同法をきっかけに、「いじめをしっかり把握し、早い段階で芽をつもう」という対応が学校現場で積極的に進められるようになっている。文部科学省の
まとめによると、小中高校などから報告されているいじめの件数は17年度に41万4378件あり、前年度より約9万件増えた。
その一方、同法は「被害者」の保護と、「加害者」への指導を求めている。施行時から、対立軸に分けて過剰に対応すれば、かえって子どもたちを追い詰めるのではないかと心配されてきた。今回の第三者委の調査も、「いじめを見つけ、解決のために指導しなければならない」という善意によって、男子生徒が自殺に追いこまれたと結論づけた。
いじめに詳しい、小野田正利・大阪大教授(教育制度学)は「よかれと思った指導が子どもを追い詰め、懸念されていたことが現実となってしまった」と話す。「学校も、誤った指導に気づけなかった。子どものことを一番に考え、実態に合ったいじめ対策を考えなければならない」と指摘する。(貞国聖子)