平成30年2月8日朝日新聞

山口・高2自殺 県再調査の人選、遺族が反発

山口県周南市で2016年7月、県立高校2年の男子生徒(当時17歳)が自殺した問題で、再調査をすることになった県の第三者委員会の人選に遺族が反発を強めている。遺族側は県とのしがらみがない委員らによる調査を求めてきたが、県は常設の第三者委で週内にも調査を始める意向だ。いじめが起きた時のために第三者委を常設する自治体は多いが、被害者側が不信感を抱くケースは珍しくなく、専門家は対応の必要性を指摘する。【土田暁彦】

男子生徒の自殺については、県教委の第三者委がいったん調査したが、遺族は、いじめと自殺の因果関係や部活動での顧問の指導に関する調査が不十分だったとして再調査を要請。遺族側は、委員長の大学教授ら複数の委員が県などと雇用関係にあったことなどで不信感を強めていた。

こうした経緯も踏まえ、昨年12月に遺族と面会した村岡嗣政知事は「遺族の気持ちにしっかり寄り添いたい」として、県教委ではなく、県の知事部局に設置する第三者委で再調査することを決めた。

県は「いじめ問題に迅速に対応するため」として、条例で常設の第三者委を設置しており、県内の大学教授や弁護士ら計5人の委員を任命している。

再調査はこの委員会に委ねることにした。

これに対し、遺族側は、遺族が推薦する県外の団体を通じて委員を新たに選ぶよう要望。県は「新たな委員会を設置したり、委員を代えたりするのは迅速な対応という第三者委の趣旨に反する」とし、新たな委員を加えることも、条例で「委員は5人以内」と定めているため「条例改正が必要で時間がかかる」と難色を示している。

男子生徒の同級生の卒業も今春に迫り、生徒の母親は「同級生への聞き取りだけでも早くしてほしいが、常設の第三者委で十分な調査ができるのか不安がある」と話している。

 

福島、奈良では県外委員

いじめ防止対策推進法に基づく国のいじめ重大事態調査ガイドライン(2017年3月)は、調査組織の構成や人選について遺族から要望がある場合、「必要ならば調整を行う」と明記している。山口県のように第三者委を常設しても、「臨時委員」や「専門委員」などを置くことで、遺族の意向を反映させたケースもある。

福島県は条例で「臨時委員を置くことができる」と規定している。15年9月に県立高2年の女子生徒が自殺した問題では、「公平性を担保するため県外の専門家を入れてほしい」との遺族の要望を受け、宮城県の弁護士ら2人を臨時委員に加えて再調査を実施。部活動でのいじめと自殺との因果関係を認め、結論が覆った。

15年12月に奈良県立高1年の男子生徒が校舎から転落死した事案では、大阪府などの弁護士ら3人を条例上の専門委員として加え、「いじめや学校からの指導で受けた心身的苦痛によって自殺した」と認定した。

福島、奈良両県のケースで遺族側代理人を務め、いじめ調査に詳しい石田達也弁護士(滋賀弁護士会)は「臨時委員らの役割は常設の第三者委の調査をチェックすることにある。(臨時委員などの規定がない)山口県の条例は硬直的で、遺族の意向を調整する余地がない」と指摘している。【土田暁彦】

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