平成28年3月17日付朝日新聞東京本社版「声」
(声)生徒に寄り添わない指導とは…
元高校教員 橋本正次(埼玉県 67)
広島県の中学3年生が、万引きしたという誤った非行記録によって志望高校の「専願」受験を認められず、自殺してしまうという痛ましい問題が起きた。この原因として多方面から指摘されたのは、学内における生徒指導のデータ作成や、それらの情報の伝達・共有のあまりにもずさんな態勢である。生徒の死を無駄にしないためには、情報管理について徹底した検討と対策が必要だ。
しかし、再考されなければならないもっと重要なことは、この問題で明るみに出た学内の指導システムではないのか。万引きなどの過ちは教員が生徒にしっかり寄り添って指導を徹底すれば、反省させることが十分にできるはずだ。
一度でも万引きなどの過ちを犯してしまうと、学校長の推薦が必要な専願受験を「できない」とするのは、「指導」というより「脅し」であろう。
生徒にとって受験とは自分の人生がかかっていると思うほどの重大事だ。自殺した男子生徒は「どうせ言っても先生は聞いてくれない」と保護者に話していたという。この学校において最も大事なことは、教員と生徒の十分な信頼関係に基づく本来の生徒指導に立ち返ることではないだろうか。
(声)推薦取り消しの私を支えた言葉
高校生 両角詩穂(愛知県 18)
広島県の中学3年生が間違った非行記録が原因で自殺した事件は、ひとごとに思えません。
「学校側のミスであなたの推薦は取り消しになりました」。私は第1志望の推薦入試が2週間後に迫った時、高校からこう言われました。私の希望の専攻コースは推薦入試の指定校の枠を受けていないのに、枠があると勘違いしたというのです。
ショックは言葉にできません。推薦で次々合格していく級友を見て胃が痛くなる日々。我が校にいるシスターが私を抱きしめ涙してくださいました。「起こってはいけないことが起こりました。
でも、この試練は、あなたに耐えられる力があるから神様がお与えになったのだと思います。
しばらくは頑張らなくてもいい。だけど心を強く持ってね」。この言葉がなければ、私も広島の少年のように自分を追い込んだかもしれません。
私は第1志望校に合格しました。苦しみ続けた日々には、意味があったと今なら言えます。
広島の中学生は支えてくれる人が校内にいなかったのでしょうか。こんな事件が二度と起きないよう心から願っています。