平成30年4月23日付神戸新聞
神戸・中3女子自殺 破棄メモ発見、遺族「隠蔽」と批判
学校側が自殺した女子生徒の友人から聞き取った内容を記したメモの写し。市教委が個人情報を伏せて公開した
2016年10月、神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒=当時(14)=が自殺した問題で、神戸市教育委員会は22日、「見つからない」としていた、自殺から数日後に生徒6人にヒアリングしたメモが学校内で見つかったと発表した。学校は昨年8月下旬にメモがあることを市教委に伝えており、遺族も問い合わせていたが、市教委は学校に確認していなかった。市教委は「職務怠慢が原因」と隠蔽(いんぺい)目的を否定したものの、遺族は「隠蔽でしかない」と批判している。
女子生徒は16年10月6日に自殺を図り、亡くなった。メモは、同月11日に同校の教員が生徒6人から聞き取った内容で、A4判2枚。いじめの内容や生徒間の関係が記されている。
その後設置された第三者委員会は調査報告書で、メモを学校が「破棄した」と結論付ける一方、内容については「一連の聞き取りで復元されている」と記述。
メモそのものは「保管すべきだった」と指摘した。
市教委は会見で「現段階では、第三者委の調査内容に影響はないと捉えている」とする。当時の校長が「紛失した」としていた経緯は「調査中で明らかにできない」と繰り返した。
遺族代理人の弁護士によると、メモの内容はおおむね調査報告書に含まれているが、生徒間の関係が詳しく記されているという。
調査報告書では、他の生徒による容姿中傷などの行為をいじめと認定したものの、自殺との因果関係は明示していない。昨年8月下旬、第三者委がまとめた報告書を見た現校長が、教員が保管していたメモの存在を市教委に連絡。市教委の担当者は「内容は第三者委の調査に反映されている」とし、確認を怠ったという。報告書を読んだ母親も同9月、メモの内容を尋ねる質問書を送付したが、市教委や第三者委から回答はなかったという。
今年3月、母親が第三者委の調査報告書に対し「調査内容が不十分」とする意見を出したのを受け、校長が今月12日にメモを市教委に提出。その後、聞き取り内容について、当時の教頭が残した「日報」も残っていたことが分かった。
市教委は今後、弁護士らによる検証委員会を立ち上げ、経緯を調査。5月中旬にも母親に報告する予定。
女子生徒の母親は神戸新聞社の取材に応じ「隠蔽だ」と厳しく批判。「真実を知りたいという遺族の気持ち踏みにじった」と憤った。(井上 駿)
「報告書信用できず」 遺族は再調査要求 神戸・中3自殺
市教委の対応を批判し、再調査を訴える母親=神戸市内(撮影・中西大二)
見つかったメモについて会見する神戸市教育委員会の職員ら=22日午後、神戸市役所(撮影・西竹唯太朗)
「生徒たちの貴重な証言を、なぜ軽く扱ってきたのか」。2016年10月に自殺した神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒=当時(14)=を巡り、学校側
が自殺の5日後に友人らから聞き取った内容を記したメモが見つかった。市教育委員会が「見つからない」とし、女子生徒の母親が何度問い合わせても明らかにされなかった一次資料だ。「調査のおかしさを分かってもらえるはず」。母親は不信感をあらわにし、再調査を求めた。
「動揺して、頭が真っ白になった」。市教委の会見直前、母親は幹部からの謝罪に耳を疑った。
市教委は母親からの問い合わせや、メモを保管していた学校側からの申し出に対応していなかった理由として「職務怠慢」を挙げた。母親は「散々『ない』と言われてきたものが、あった。隠蔽でしかない。全く信用できない」と憤った。
遺族代理人の弁護士によると、残されていたメモに記されていたのは、自殺した女子生徒を巡る人間関係や、いじめの内容。「娘の自殺直後に、生徒たちが勇気を持って学校に証言したもの。メモの情報を基に聞き取りをしてくれていたら、第三者委員会による調査報告書の内容は違う結果になっていたはず」と唇をかんだ。
調査報告書の不十分さを訴え続けてきた母親は、メモの発見を「あったんや、良かった」とも受け止める。「ほかの生徒の聞き取りメモもあるはず。事実を隠すことなく、新たな調査委員会で調べてほしい」と願った。
市教委の対応について、「全国学校事故・事件を語る会」(事務局・たつの市)代表世話人の内海千春さん(59)は「残されていたメモは、自殺直後にヒアリングされた最初の情報で、アンケートを始める前の最も重要な資料。意図的に隠したと指摘されても仕方がない」と批判。「ずさんな情報管理は、調査報告書の信用性に関わり、遺族の不信感もぬぐえない。市教委を事務局としない完全な第三者委を設けて再調査するべきだ」と指摘した。
(段 貴則、阪口真平、若林幹夫)
■市教委「隠蔽ではない」
なぜ自殺直後に生徒にヒアリングしたメモは、1年半も見つからなかったのか。22日会見した神戸市教育委員会幹部は、調査不足の怠慢を認め謝罪した。
ただ「隠蔽ではない」と繰り返し、約2時間に及ぶ会見で頭を下げる場面はなかった。
22日午後3時半から神戸市役所で急きょ開かれた会見には、新聞社やテレビ局約10社が詰めかけた。
昨年8月、調査報告書を見た現在の中学校長が、メモの存在を市教委に伝えたにもかかわらず、市教委は学校に確認しなかった。
会見で後藤徹也教育次長らは、遺族がメモの存在についてたびたび調査を求めていたことに対しては「深く反省している」と淡々と話した。「教育長が指示していたにもかかわらず、メモの存在を確認することができなかった。怠慢だったが、意図的ではない」と謝罪した。
メモの内容については「メモと報告書の内容に食い違いはおおむねない。メモの内容の大半は、既に発生当初の調査で報告されている」などと釈明を繰り返した。メモがなぜ今まで見つからなかったかについて質疑が集中したが、「今後、弁護士らに調査を依頼したい」と述べるにとどまった。(西竹唯太朗)
神戸・中3女子自殺 メモ発見で市教委会見<一問一答>
「破棄された」としながらも存在していたメモの内容を明かす神戸市教育委員会の後藤徹也教育次長=22日午後、神戸市役所(撮影・西竹唯太朗)
2016年10月に自殺した神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒=(14)=を巡り、学校側が自殺の5日後に友人らから聞き取った内容を記したメモが
見つかった問題で、神戸市教委が開いた会見の一問一答は次の通り。
Q メモが出たことで調査報告書に追加記載があるのか?
A メモの内容は、当時の校長から第三者委員会に報告している。生徒への聞き取りは、全校生徒へのアンケートをしている。それに基づき、口頭による
聞き取り調査を3回にわたって第三者委員会がしている。一連の聞き取りで、メモに書かれていた内容は復元できている。
Q なぜメモを破棄したのか?
A 破棄したという表現は、校長は使っていない。メモと思われるものはあるが、学校としては紛失したと説明している。報告書で破棄になってしまったのは、
第三者委員会の報告を作成する際、少し記述として不正確になってしまった。
Q 紛失したのはどの段階か?
A はっきりしないところがある。
Q 紛失した理由は?
A メモは2016年に作成された。16年と17年の校長は異動で後任に代わっている。後任の校長が3人の教師と8月にできた報告書を見て、メモが破棄
されていると書かれているのを確認。そのうちの1人が校長にメモがあると伝え、発覚した。
Q そのあと、教育委員会として十分な確認がなかったのか?
A 結果として確認が不十分だった。メモの発見に至らなかったのは怠慢。深く反省している。
Q 校長は教育委員会の誰に、メモの存在を報告したのか?
A 当時の総務部長が受け、教育長にも報告した。その後、担当の学校教育部にも調査の指示が伝えられた。
Q 校長がメモがあると言ってたのに、確認しなかったということか?
A そういう事です。メモの内容は16年10月11日の聞き取り内容とほぼ同じ。既に報告していることがメモの内容だと思っていたので、メモまで確認はして
いなかった。
Q 報告書とずれているところはなかったか?
A おおむね入っているということだが、もう一度第三者委員会の確認が必要だと考えている。
Q メモには何が書かれていたのか
A 被害生徒にまつわるトラブルやエピソード、生徒関係などが書かれていた。
Q メモを取った教員は何人?
A 3人
Q 誰が書いたメモなのか?
A 当時、どの教師がどの段階で作ったメモなのかは分かっていない。一次資料でない可能性もある。
Q 遺族からメモを探してくれという申し出はあったのか?
A それは再三あった。見つからなかったということに対して、ちゃんと探してくれという申し出があった。
Q 今回のメモは誰が保管していたのか?
A 3人の教師のうち1人であるということを校長に報告した。その教師が昨年3月に引き継ぎを受けて、メモを机に保管していた。
Q 引き継ぎ元の人は異動しているのか?
A そうです。引き継いだ先生も事件当時いた先生なので、恐らく昨年3月下旬くらいに引き継いだと思う。
Q 前任の校長になぜ紛失したかということは聞いてないのか?
A 前任の校長は紛失した理由をきちんといっているが、複数に確認できないと確証が取れない。
Q メモの発見が遅れたのが意図的でなかったと言い切れる判断は?
A 報告書にもメモの内容が記載はできているので、きちっとした調査ができなかった。職務怠慢であったと事務局では判断している。
Q 前校長がメモはないといったのはいつか?
A 16年10月です。教育委員会に対して口頭で報告している。その時に紛失したと報告があったのかは分からない。