平成30年4月19日東京新聞神奈川版
茅ケ崎 小5いじめ問題 組織の隠蔽体質 浮き彫り
いじめを受けた男児が思いを綴ったメモ(両親提供)
「面倒になったので見て見ぬふりをした」。いじめが原因で茅ケ崎市立小学校5年の男子児童(10)が2年にわたり不登校になっている問題は、いじめと認識しながら放置した女性担任(当時)の無責任さが事態を悪化させた。加えて浮き彫りになったのは、関係組織の隠蔽体質とずさんな対応ぶり。児童を守る立場にいるはずの学校と市教育委員会に重い課題が突き付けられている。 (布施谷航)
「何度頼んでも学校や市教委は動こうとしなかった。息子は今でも外に出ることさえままならない」。男児は二〇一六年四月から不登校になり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。両親は悔しさをにじませる。
学校と市教委の対応は終始、後手に回った。両親の訴えで学校がいじめを知ったのは同年三月。関係する児童から事情を聴いたが、担任の「遊びの延長と思った」との証言をうのみにして事実上、放置した。
文部科学省のガイドラインにも沿っていなかった。両親の再三の申し入れで学校は同年十一月に第三者委員会を設置したものの、不登校になって既に七カ月が経過。いじめ防止対策推進法は、児童生徒の心身や財産に重大な被害が生じたり、欠席日数が相当期間(おおむね三十日)に及んだりした場合を「いじめ重大事態」と定義し、ガイドラインはその際は第三者委を設けるよう示している。
結局、真相が明らかになったのは、不審に感じた同僚教諭の担任への追及から。「見て見ぬふりをした」との証言を引き出し担任は一七年十二月、両親の前で「自分の非が軽くなると思い、校長にはうそをついた」と打ち明けた。
市教委の認識も甘かった。対応をほぼ学校任せにしただけでなく、「見て見ぬふり」の証言を記した文書の存在を市教育長に報告していなかったことが先月、判明。結果的に第三者委にも提出されなかった。担当者は「重要とは感じたが、報告しなかったのは判断ミス」と不可解な釈明をするにとどまった。
今回のように、学校や教委が事態を矮小化させようとするケースは後を絶たない。関西学院大の貴戸理恵准教授(教育社会学)は「学校評価、教員評価などの競争原理が過度に組み込まれる教育改革が進んできた。自己保身に走り、内向きになっている」とみる。
さらに貴戸准教授は「教師同士で相談し合える風通しの良い環境をつくることが必要」とし、「個人で対抗するのは難しくても、心ある子どもが集団で被害者を守ることはできる。地域の大人も含めて見守ることが、そうした子どもを育てるのにつながる」と話す。
服部信明市長は先月、第三者委が「見て見ぬふり」の文書の存在を知らないまままとめた答申を差し戻した。再調査の結果は夏にも出る見通しだ。
両親は「校長から『情報提供するから、いじめの事実を口外しないように』と言われたこともある。きちんと事実を調べた上で加害者や市教委、学校に謝罪してもらうことが、先に進む最初の一歩になる」と声を絞り出した。
<茅ケ崎市立小のいじめ問題> 2015年5月、当時小学2年の男児が校内のトイレで同級生5人から暴行を受けた。いじめられていた子を助けたのが理由だった。男児へのいじめは同年冬ごろから深刻化し、取り囲まれて殴る蹴るの暴行を受けたり、「おまえはおもちゃだ」と言われて馬乗りになって殴られたりした。
市教委は再発防止検討会議を設置し、これまでの対応を検証する。