平成28年3月9日朝日新聞

誤った万引き歴、2年前に気づく 学校側修正せず 広島

1豊美

記者の質問を受け、目を閉じる坂元弘・府中緑ケ丘中校長(右)=8日午後10時56分、

広島県府中町、青山芳久撮影

 

 広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒(当時15)が昨年12月に自殺した問題で、学校側が「生徒が万引きした」とする誤った記録にもとづき、同11月から5回、生徒への進路指導を繰り返していたことがわかった。学校側は2年前、この記録が誤りだと指摘され、会議用の紙の資料は直したものの、サーバー上の電子データを修正していなかったという。

 町教育委員会の高杉良知(りょうち)教育長、緑ケ丘中の坂元弘校長らは8日夜に会見を開き、本来なら生徒の志望する私立高校に推薦できたが、誤った記録を根拠に「推薦できないと伝え、生徒を苦しませた」と認めた。高杉教育長は「尊い命が失われるという、あってはならないことが起きた。不安や悲しみを感じた生徒や保護者、関係者に深くおわびする」と謝罪した。

 会見の説明によると、2013年10月6日、「万引きをした生徒がいる」と店から連絡を受けた学校職員は、口頭で生徒指導部の教諭に万引きをした生徒の名前を伝えた。しかし、生徒指導部の教諭は生徒指導用の資料を更新する際、フォルダーに別の生徒名を入力した。さらに同8日に教諭が配った会議資料に万引きをしていない自殺した生徒名が記載されていた。職員から誤りの指摘を受け、教諭は配布した紙の資料は直したが、フォルダーはそのままになっていた。伝達の際、教諭は

メモをとっていなかったという。

 学校側は昨年11月中旬と下旬、担任教諭が生徒に進路指導する際、誤った記録をもとに私立高校に推薦を出すことは難しいと告げた。3回目以降の面談では、学校推薦はできないと親に相談するよう求め、最後の指導となった12月8日朝には、万引きのことを親に話したのか確認したという。いずれも個別の部屋ではなく、廊下などで指導していたという。

 8日は三者面談が予定されていたが生徒は現れず、担任教諭と親だけで面談。生徒は自宅で自殺していた。自宅にメモが残されていたが、自殺の理由について具体的な記載はなかったという。翌9日、全校集会で生徒が亡くなったことを伝えた際、死因を「急性心不全」とし、自殺は伏せて説明していた。

 男子生徒は進路として第1に公立高、第2に私立高の「専願」を希望していたという。私立高の専願受験は、1校だけを受験することで一般入試よりも有利になる制度で、出願のために学校長が認める必要がある。

 昨年11月以降、担任教師は5回にわたり、教室前の廊下などで、男子生徒に対して「万引きのことがあるので専願が難しいことが色濃くなった」などと伝えていた。

 生徒の両親は「杜撰なデータ管理、間違った進路指導がなければ、我が子が命を断つということは決してなかったと親として断言できます」とのコメントを発表した。

 

■「学校の情報管理、あまりにも不適切」

 小松郁夫・流通経済大教授(学校経営学)の話 進路に関する記録は、生徒や保護者にとって極めて重要な書類だ。推薦に関する情報は特に影響が大きく、担任だけでなく、管理職や学年主任もチェックすべきものだ。今回、学校側は万引きをしたとする情報が誤りだったと指摘された後も修正しないなど、二重三重にミスを犯している。生徒の担任も、当時のことを知る先生に事情を聴けば間違いに気づけた可能性が高い。学校の情報管理はあまりに不適切で、責任は免れない。学校側と親、親と生徒のやりとりの詳細はわからないが、生徒は夢を絶たれて将来に絶望したのかもしれない。

 

■中学校で保護者説明会

 自殺した男子生徒が通っていた町立府中緑ケ丘中学校の体育館では8日夜、全校生徒の保護者を対象にした臨時の説明会が報道陣に非公開で開かれた。

 午後6時半からの説明会の会場には次々に保護者らが訪れた。町教委や出席者らによると、説明会は午後8時までの予定だったが、質問する保護者の挙手がやまず、大幅に延びた。

 会場から出てきた3年生の男子の父親(47)によると、冒頭に学校と町教委から説明があった。亡くなった生徒の母親も出席し、泣きじゃくっていたという。会場では担任教諭が出席していないことに質問が殺到した。

「体調不良」との説明に、遺族も「なぜ」と怒っていたという。「学校に説明を求めても詳しい説明はなく、ご遺族からの説明でわかることも多かった」と話した。

 息子は亡くなった男子生徒と同じ陸上部で、男子生徒は自宅に遊びに来るほど仲がよかった。「ものすごく活発で、優しい子だった。亡くなったと聞いてうちの子もショックを受けていた。もう少し教師が生徒の言葉に耳を傾けていれば、このようなことは起きなかったのではないか」と話した。

 説明会に出席した中学2年男子の40代の母親は「学校はミスの経緯を説明したが、なぜ起きたかわからず、納得できなかった。会場で何度も『わからない』という声が上がっていた」と話した。

 3年生の子どもがいる50代の男性は「学校を信頼していただけに、あってはならないことが起きて残念だ。

間違った情報に基づいて進路指導が行われた原因を解明し、対策を考えなければならない」と話した。

 府中町の高杉良知教育長はこの日午前、報道陣の取材に「これまで誤認に基づいて『推薦できない』という指導をしたことについて、教育委員会としても、学校としてもご遺族に謝罪した。保護者会でもきちっとおわびする。生徒を預かる責任者である教育長として、生徒が亡くなったということについてまず申しわけなく思う」と話した。

 

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