2021年3月1日付朝日新聞
重傷負わせ逮捕も ボランティアの部活指導、現場任せ
県警石岡署や市教育委員会によると、事件は小美玉市の市立中で昨年9月1日、男性と剣道部員の男子生徒がつばぜり合いをしていて起きた。男性が突然体当たりしたため、生徒は後方に転倒。直後に生徒は「大丈夫です」と話したが、後日、病院で左手関節の骨挫傷や脳振盪(しんとう)など、3カ月の重傷と診断された。
男性は8月下旬から同中へ指導に来ており、当日が3回目。市教委は「顧問も剣道経験者。(男性は)地域の剣道団体でも活動しており、接点があったかもしれない」と説明する。
署は1月20日、男性を傷害容疑で逮捕した。男性は剣道6段で、生徒は昨春に入学して剣道を始めたばかりの初心者。部員の技量を見極められる男性が、経験の浅い生徒に危険な練習をさせてけがを負わせた責任を重くみたとみられる。
市教委によると、男性の立場はボランティアで、校長の面談を経なくても活動できる。顧問は事件当日、練習に同席していたという。
今回の事態を受け、萩生田光一・文部科学相は1月22日、記者会見で「学校の許可を得ずに部活指導にあたるのは適切ではない」と指摘。県教委は「ボランティアも含め、部活の指導には校長との面談が必要」という趣旨の通知を、県内すべての県立学校や市町村教育委員会などに出した。
部活動や授業中の事故でけがを負った場合、保護者と学校側が掛け金を負担する災害共済給付制度で治療費がまかなわれる。今回のケースは「学校管理下の事故」として、この制度で被害生徒側に治療費が給付される見通しだ。狩谷秀一・市教委指導主事は「長年の習慣で、ボランティア参加に校長面談を課してこなかったが、部活動は教育活動の一環。
学校側の監督責任を明確化するため、校長が把握するよう改めた」と説明する。
「保護者が参加すると断りにくい」
部活の指導は教員だけでは手が回らないことから、これまでも保護者や地元住民が様々な形で指導に関わってきた。県教委は「外部指導者」「部活動指導員」「ボランティア」の3種類を想定している。このうち、定義が最もあいまいなのがボランティアだ。
古くからあるのが外部指導者で、25年以上前に導入された。校長の委嘱を経て、顧問の技術指導を補う人材としての役割を期待されている。顧問不在の時は、指導や試合への引率は認められていない。大半が無報酬だ。
近年、部活に携わる教員の負担の重さが問題視されたことから、国が2017年度に導入したのが部活動指導員だ。市町村教委が任用し、顧問教員の負担を減らせるよう、単独で練習の指導や試合の引率ができる。国の基準で、時給1600円の報酬が出る。
外部指導者については県教委のガイドライン、部活動指導員は学校教育法の施行規則にそれぞれ役割が明記されている。だが、ボランティアについては明確なルールがなく、運用は現場に任されている。ある県教委関係者は「保護者が参加すると断りにくく、指導方法などについて、顧問と意識の共有が難しい場合もある」と打ち明ける。
県教委によると、部活動指導員は事故時の対応を求められるなど、責任が重いからか敬遠する人が多く、県内17市町村で79人(2月8日時点)にとどまる。県教委は市町村立の中学校計219校に1校1人配置する目標を掲げるが、現在配置できているのは計46校で、全体の約2割だ。
こうした事情もあり、部活指導の補助は外部指導者とボランティアが現場を支えているのが現状だ。ただ、県教委は両者について、正確な人数などは把握できていない。教員の負担減をめざしている市町村教委には「校長との面談を要件にすれば、簡単なボランティアもお願いしにくくなる」と障壁の高さを危惧する声もある。県教委の担当者は「ボランティアは幅が広い。
整理して自治体と共有したい」と話している。(鹿野幹男、片田貴也)
技術と指導者としての資質は別
日本部活動学会副会長で学習院大学の長沼豊教授(教科外教育)の話 部活動は学習指導要領に明記されている教育活動の一環。責任の所在を明確化するため、校長がボランティアを把握するのは当然だ。技術が優れていることと指導者としての資質は別。研修が不可欠で、サッカー指導者のようなライセンス制度をほかの種目でも導入すべきだ。指導者不足という点については、負担に見合った報酬を支払うことで解消をめざすのが望ましい。