平成29年12月6日朝日新聞
鹿児島・高1自殺 いじめ否定に遺族「調査不十分」
2014年8月に鹿児島市の県立高1年の男子生徒(当時15歳)が自殺した問題で、県教育委員会が設置した第三者委員会が報告書で「いじめがあったとは断定できない」と結論付けたことについて、遺族が5日、「生徒へのアンケートなどでいじめの事実が出てきたのに調査が不十分」と訴える意見書を県教委に提出した。
いじめ防止対策推進法は県教委の第三者委が結論を出した後も、知事が必要と認めれば再調査できると定めている。
遺族は「三反園訓知事に報告書のおかしさを知ってもらいたい」と話す。
男子生徒は14年8月20日、自宅で命を絶った。遺書はなかった。遺族の求めで学校が半年後、同学年の生徒や同じ部活動の生徒にアンケートを実施したところ「葬式の時に生徒がトイレで『ばれたらやばくない』と話していたのを聞いた」などの回答が複数あった。第三者委のアンケートや聞き取りでも同様の回答を得られた。
しかし第三者委は今年3月にまとめた報告書で、かばんの棚に未開封の納豆巻きが置いてあった▽隠されたスリッパがトイレから見つかった--などの事実を認定したが、葬式の時の生徒発言は「発言者や意図が不明」として「いじめがあったとは断定できない」と結論付けた。
これに対し遺族は意見書で、生徒発言の第三者委の評価について「自死に直結するいじめを推認させるのに、徹底調査をしていない」と指摘。「納豆」や「スリッパ」などの事実で「男子生徒は精神的苦痛を受けたと考えられ、いじめに当たる」と主張した。
さらに聞き取り調査は生徒は3人だったのに教職員は88人に上り、「教職員の回答をいじめを否定する方向で引用するなど公平性を欠いている」とした。
県教委高校教育課は5日、「報告書と意見書の内容を知事に報告したい」と話した。【樋口岳大、林壮一郎】
遺族が再調査を求める事例、全国で相次ぐ
教育委員会などが設置した第三者委の調査を不服として遺族が再調査を求める事例は全国で相次いでいる。
山口県周南市で昨年7月に県立高2年の男子生徒が自殺した問題では、県教委の第三者委が今年10月、学校生活の一部にいじめがあったことを認める報告書をまとめたが、部活の顧問による指導が適切だったかを判断しなかったため遺族が反発、知事に再調査を求める意向だ。
2015年に茨城県取手市立中3年の女子生徒がいじめを苦にする書き込みを日記に残して自殺した問題では、市教委設置の第三者委について、遺族が「中立性や遺族への配慮を欠く」として解散を求め、県が新たな第三者委の設置を決めた。
青森県立高2年の女子生徒が14年に自殺した問題のように、知事が実施を決めた再調査でいじめとの一定の因果関係が認められるなど結論が覆った例もある。
いじめ問題の調査に詳しい渡部吉泰弁護士(兵庫県弁護士会)は「第三者委には説明責任や独立性、被害者の視点に立った調査などが求められるが、それができていないから遺族が不満を持つ。遺族の『知りたい』という思いを最大限尊重する仕組み作りが重要だ」と指摘する。【樋口岳大】