2023年1月25日付朝日新聞デジタル

(大学で取り組む反暴力:1)「先生の言葉一つで、生徒が死ぬ」 子を亡くした親の思い、学ぶ

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研修会で学生たちに語りかけた倉田久子さん(左)と山田優美子さん(中央)。右が南部さおり教授
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研修会で被害者の母親の話を聞く日体大の学生たち

大阪市立桜宮高男子バスケットボール部の主将が、顧問からの暴力などを理由に自死したことが明らかになり、この1月で10年が経つ。以来、スポーツにおける反暴力の啓発については、競技団体だけでなく、大学でも様々な取り組みを行ってきている。3回にわたってリポートする。

昨年12月16日、「学校・部活動における重大事故・事件から学ぶ研修会」が日本体育大学で開かれた。

「将来、子どもを指導するかもしれない学生のみなさんに、一人の高校生に起こったことを聞いていただきたいと思います」

日体大の学生たちに、そう語り始めたのは、山田優美子さん。教員の不適切な指導などで子どもを亡くした親たちでつくる「学校事故・事件を語る会」のメンバーだ。

優美子さんの息子・恭平さんは2011年6月、自ら命を絶った。愛知県の県立高校の野球部員だった。

山田さんは、部員たちが監督から暴力的な指導を受けても、受け入れるしかなかった現実を、涙を交えて語った。

「今日もみんなが殴られた。1人は倒れたところに蹴りが入った」と、恭平さんが泣きそうな顔で山田さんに語っていたこと。

恭平さんも練習中、監督からパワハラの標的になっていた状況を、死後にチームメートから聞いたこと。

恭平さんが亡くなった時のことは、「頭が痛いと欠席した翌日、学校に送り出しました。でも、恭平はそのまま別の場所で亡くなりました。私は第一発見者でした」と語った。

そして自責の念。「自分は何もしなかった。野球を取り上げてはいけないと、本人の退部の申し出が却下されても、『退部を認めてください』と、監督に親の立場で言わなかった。甘く見ていました」

最後にこう語りかけた。

「みなさんの一挙手一投足が、子どもに与える影響の大きさを知っておいてください。先生の言葉、目線一つで、生徒が死ぬしかないようなことになる存在でもあるのです」

「私の話を聞いて、教師になるのが怖くなった方がいるかもしれません。その怖さを知った方にこそ、教師になってほしいです。皆さんのまっすぐな目を、とても頼もしく思います」

■指導現場に出る前に情報を

この研修会は、スポーツにおける体罰問題に詳しい南部さおり教授(スポーツ危機管理学)が、16年から始めた。今回はコロナ禍で3年ぶりだった。

日体大には、保健体育教員やスポーツ関連の職を目指す学生が多い。それは、運動部活動をはじめ、子どものスポーツ指導に携わる可能性が高い、ということでもある。

そこで、運動部活動での重大な事件・事故の被害者遺族に、起こったことのリアルを伝えてもらう。

「部活動で何が起きているか、スポーツ活動の中でどうすれば子どもの命を守れるか、本気で考えたい」。

学生たちにそんな場を、という南部教授の意図だ。

今回は、柔道事故の撲滅を目指す「全国柔道事故被害者の会」の代表、倉田久子さんも講演をした。

11年に当時高校1年の息子を、柔道部での練習中に頭を打った事故で亡くしている。取材に「スポーツに死と隣り合わせの面があるということを、指導現場に出る前に、情報として得ておくことに意義があると感じます」と話した。

スポーツ文化学部3年で、アーチェリー部マネジャーの秋元香穂さんは研修会に参加し、「普段は講義を受ける形で学ぶが、経験された方の言葉は重い。教育関係の仕事を目指している中、より真摯に学びを深めていきたいと思いました」と話した。(編集委員・中小路徹)

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