平成28年1月22日 朝日新聞
(暴力とスポーツ)「学生間、簡単になくならぬ」 体育・教育系大学、意識培う取り組み

大阪・桜宮高バスケットボール部の主将が顧問の暴力などを苦に自殺したことや、柔道女子の日本代表監督らの暴力・パワハラ問題が明らかになってから3年。スポーツ指導者や中学、高校の運動部活動の顧問となる教員を育てる体育系、教育系の大学では、学生に暴力根絶への意識を植え付けるべく、息の長い地道な取り組みを進める。
年間約300人の保健体育教員を送り出す日体大で、昨年10月から11月にかけて3度、運動部の指導者全員が集められた。「学生間で不安の残る関係が存在する。大変なことが起こったら廃部も辞さない」。谷釜了正学長が訴えた。
谷釜学長は2013年以降、毎年各クラブを視察して反暴力を説き、合宿所の巡回も指導者に毎月義務づけてきた。そんな中、上級生から暴力を受けたことを示唆する下級生の声が教員を通じて何件か耳に入り、危機感につながった。「学生間では簡単になくならないのが現実。指導者には、暴力を振るう上級生を試合で使わないなど、勝ち負けを犠牲にするくらいの覚悟がいる」 鹿屋体大でもスポーツ哲学・倫理の授業で、英国の体罰防止の先進的な制度を紹介するなどの成果が出ている。昨年10月、3、4年にアンケートをしたところ、暴力に同意する回答は16%で、12年のアンケートの46%から大きく減った。一方で高校までの部活動での体罰経験は「あり」が29%で、12年の18%を上回った。調査をした森克己教授は「体罰経験者が増えたのではなく、スポーツで何が暴力なのか、学生の意識が進んだため」と分析する。
新しいカリキュラムを設ける大学も出てきた。
宮城教育大では新年度から1、2年向けの科目として「運動部活動の教育学」が始まる。学校で教育課程外に位置づけられる運動部活動に焦点を当てた教職科目は、前例がない。担当する神谷拓准教授(スポーツ教育学)は「これまで、体系的な教育を受けないまま現場の部活指導を担う『無免許運転』が実態だった。そこで教師が自分の経験に頼り、暴力的指導をしてきた可能性がある」と言う。講義には指導法だけでなく、暴力が繰り返された歴史的な背景も盛り込む。
大体大では「運動部指導実践論」が17年度から4年の単位として導入される。「これまでも保健体育教師は体育学を十分学んできた。なのに、体罰が起こった」と土屋裕睦教授(スポーツ心理学)。
そこで、講義は生徒の自主性を尊重する部運営の在り方や、生徒、保護者とのコミュニケーションスキルなど、各要素を部活動の現場に照らし合わせた内容にしている。(編集委員・中小路徹)

体操教室指導者、登録を一時停止 協会、暴行容疑事件で
日本体操協会は21日の常務理事会で、静岡市の体操クラブで指導していた元世界選手権代表の寺尾直之容疑者(53)が児童への暴行容疑で逮捕され、指導者登録を一時停止したと報告した。寺尾容疑者の長男で、児童への傷害容疑で逮捕された直希容疑者(28)も同じ処分を受けた。法的な処分が確定した後に、改めて対応を決めるという。

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