平成30年11月20日付朝日新聞鹿児島版
いじめ再調査 本人の「感じ方」重視
鹿児島市の県立高校1年生だった田中拓海さん(当時15)が自殺した問題で、県いじめ再調査委員会は18日、「いじめはあった」と認定した。前回、県教委による第三者委員会の調査結果と異なる判断に至ったのは、被害者がどう感じたのか、被害者側の視点に立って様々な事情をとらえ直したからだった。
「いじめはそれなりの頻度で繰り返されていた」。県庁であった記者会見で、甲木真哉委員長(福岡県弁護士会)はこう述べ、今後いじめと自殺の関連性や、学校の対応に問題がなかったのか、さらに調査する考えを示した。
再調査では、いじめ防止対策推進法の「いじめ」に当たるかを調査。同法上「いじめ」は心理的や物理的な影響を与える行為としたうえで「対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義する。
主に調査対象とされたのは自殺の約半年後、学校の調査で判明した「かばんに納豆が入れられていたらしい」、「スリッパを隠されていた」などの点。いずれも前回の県教委の第三者委の調査で「いじめをうかがわせるエピソード」とされるにとどまっていたからだ。
再調査では、さらに詳細なアンケートを実施したり、聞き取り対象を大幅に増やしたりした。
その結果、前回調査が納豆巻きを置かれた場所について「本人のかばん棚」としていたのに対し、「賞味期限切れのものをかばんの中に入れた」と踏み込んで認定。スリッパ隠しについても、一度探した男子トイレから後で発見された経緯を踏まえ、「意図的」と前回と異なる判断を示した。
異なる判断が示された理由の一つに、周囲の生徒たちが田中さんを心配していた事情を重くみたことがある。田中さんにとってこうした事情が「いじめ」の定義の「心身の苦痛を感じていた」と強く推認できると判断したからだ。
甲木委員長は「本件の特徴」として、いじめの「感じ方」や「とらえ方」を挙げた。多数の元生徒が「いじり」や「からかい」があったと明かしたのに、それを「遊びの延長」「いじめというほどのものではない」といった程度の認識だったという。「田中君の心理的苦痛を感じることができていない。いじめの範囲を狭くとらえてしまっている」と指摘した。
「次に生かされる提言出して」
母親は18日、記者会見を開き、中間まとめについて「丁寧な調査をしてもらった」と評価する一方で、「納豆巻きのやりとりやスリッパを探している拓海の姿が目に見えるようで、つらい」と思いを語った。
前回調査の結果が発表された後の昨年12月、母親は県教委に対し「生徒3人にしか聞き取りをしておらず調査は不十分」とする意見書を提出した。会見では、再調査の依頼を元生徒らに送る際、母親の手紙を同封してもらっていたことを明かした。聞き取り対象が元生徒17人と増えたことを踏まえ「協力してくれた生徒さんや保護者に感謝を伝えたい」
と時折、笑顔を見せる場面もあった。
いじめが認定されたことに対して「(拓海さんに)つらいことがあったことが明らかになった。複雑な気持ち」と涙をこらえてうつむいた。再調査委には「拓海の死が次に生かされるような提言を出してもらいたい」と述べた。(野崎智也)