平成31年1月30日東京新聞
川口 中学いじめ 被害者本人が記録請求 市教委、多数開示せず
埼玉県川口市の市立中学校でいじめに遭った元男子生徒(16)が、自分のいじめにかかわる情報の開示を市教育委員会に請求したところ、多数の文書が存在を明らかにしないまま開示されなかったことが分かった。元生徒は県教委にも開示を請求し、市教委作成の文書が出てきて判明した。情報公開の専門家は「市教委が文書を隠したとみられても仕方ない」
と指摘する。 (柏崎智子、森雅貴)
元男子生徒は入学まもなくからサッカー部で会員制交流サイト(SNS)で中傷されたり、Tシャツのえりを引っ張られ倒されるなどのいじめに遭った。二年生だった二〇一六年九月に自傷行為をして不登校に。学校や市教委は当初、いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」と認めず、県教委や文部科学省の指導で一七年二月から第三者調査委員会を開催。
一八年三月、「いじめが不登校の原因」と報告書をまとめた。
学校や市教委に不信感があった元生徒は同年一月、いじめに関する全記録の開示を市教委に請求。五十四枚が開示されたが、三十二枚は元生徒や保護者が書いた経緯や手紙だった。いじめについて市教委が作成したのは、対応を時系列で列挙した文書など十四枚にとどまった。
資料が少ないと感じた元生徒側は一八年十一月、県教委へ、自分のいじめに関し市教委が提出した文書の開示を請求。今月、百三枚が開示され、市教委作成の文書は七十二枚に上った。いずれも市教委が開示したものと別の文書だった。
市教委指導課は取材に対し、「当時は調査委員会で審議中だった。調査委の会議は条例で非公開と定められ、調査・審議の対象になり得る文書は開示しなかった」と説明。しかし、いじめ防止法などでは、調査委は被害者側に適切に情報提供し、要望を聞きながら進めるよう求めている。
市教委は元生徒側に「調査委に関する文書は開示しない」と通知していたが、具体的にどんな文書が存在するか知らせていなかった。指導課は「普段のやり方で隠す意図はなかった」とし、開示制度を担当する市行政管理課も了承したと説明。一方、行政管理課は「もっと開示できる文書があるのではと指摘したが、最終決定は指導課」とした。
◆隠したように見える
<個人情報開示に詳しいNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長の話> こんなに異なる文書が別の機関から出てきたケースは、聞いたことがない。自分の情報の開示請求なので、できる限り開示するのが原則。県に提出した文書を本人に開示せず、文書名も伝えないのは、隠していたとみられても仕方ない。
川口いじめ 市教委文書 「事実と異なる」母不信
川口市教委が開示せず、埼玉県教委への開示請求で出てきた文書=一部画像処理 |
埼玉県川口市教育委員会がいじめに関する多数の文書を当事者の元男子中学生に開示しなかった問題で、県教委の開示で判明した市教委の文書の中には、いじめとして問題になった原因が保護者にあるかのように印象付ける記述が複数あった。元生徒の母親は「事実と異なることを県教委などへ報告していたから、開示しなかったのでは」と不信感を強めている。 (柏崎智子)
問題の記述があったのは、二〇一七年八月三十日付の「部外秘」とされた市教委指導課作成の文書。
いじめの概要と学校、市教委などの対応をまとめたもので、冒頭の「本事案の概要」に「二年生時の夏休みに、母親とサッカー部保護者との間でトラブルがあり(中略)これをきっかけに、母親が一年生時の事案をいじめであるとして学校に申し出た」と書かれていた。
しかし同じ文書の中で、元生徒が一年生の一学期に会員制交流サイト(SNS)で仲間外れにされた件では「一年生時の担任から、かかわる生徒全員が指導を受け」たと書いていた。
一年生の頃から学校がいじめを把握し対応していたとしており、記述が矛盾している。
また、市教委の対応では「母親に対して相当回数にわたり直接指導、学校訪問を行い、解決に向けた指導助言を行った」などと強調。不登校が長引いた原因が母親にあるかのような書きぶりが目立った。
文書を読んだ母親は「一年のころから学校に相談しており、二年になっていじめを申し出たというのはうそ。私と他の保護者との間でトラブルになったこともない。このような文書を基に第三者調査委員会も話し合ったのかと思うとショックだ」と話す。
また、不登校だった元生徒のため、カウンセラーの派遣や学習支援を市教委が提案しスケジュール案を示した保護者宛ての文書も新たに開示されたが、母親は「文書は見たことがなく、学習支援はほとんど実施されなかった。本人に届かない文書がなぜ県教委に提出されていたのか」と驚く。
指導課は取材に「いじめの件で元生徒側と係争中であり、文書の内容は裁判にかかわるため答えられない」とコメントした。元生徒は、学校や市教委の対応が不適切だったため不登校が長引いたとして、損害賠償を求め市を提訴している。
教育評論家の尾木直樹さんは「母親をいわゆる『モンスターペアレント』だと思わせ、たいしたいじめではないと見せようとする意図を感じる。第三者調査委員会は被害を受けた子どものために実施するものなのに、市教委の保身のためのよう。多数の文書を開示しなかったことも含め、職員の処分を検討するべきだ。放置すれば市長にも責任が及ぶ」と話している。