平成29年4月14日朝日新聞
園児水死、幼稚園側に6300万円支払い命令 横浜地裁
神奈川県大和市の私立・大和幼稚園のプールで2011年7月、園児の伊礼貴弘ちゃん(当時3)が水死した事故をめぐり、両親が園を運営する学校法人西山学園と元園長(69)、元担任(26)らに計約7400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が13日、横浜地裁であった。石橋俊一裁判長は、学園と元園長、元担任の責任を認め、計約6300万円の賠償を命じた。
事故当時、貴弘ちゃんは他の園児約30人と水深約20センチのプールで遊んでいた。判決は、園児がプール内で入り乱れるなか、当時新任教諭だった元担任がビート板などの片付け作業のために目を離した時に貴弘ちゃんがおぼれたと認定。園児を監視する義務を怠ったと判断し、「事故はこの不注意に起因するところが大きい」と述べた。
裁判で両親側は「担任以外にも、園児を常時監視する職員を配置する義務があった」などと元園長の過失も主張していた。だが、判決は「担任だけでも監視可能だった」と退け、元園長については元担任の監督者としての連帯責任を認めるにとどめた。両親は、元園長に関する判断を不服として控訴する方針。
この事故をめぐっては、元園長と元担任が業務上過失致死罪にも問われた。元担任には14年3月、監視を怠ったとして罰金50万円の有罪判決、元園長には15年3月に無罪判決が言い渡され、それぞれ確定している。
判決を受けて西山学園は「内容を真摯に確認し、当園の責務を果たしたいと考えます」とコメントを出した。
判決後、父親の伊礼康弘さん(42)は横浜市内で会見した。判決は園側の責任を認め、請求額の8割超の賠償を命じたが、表情に明るさはなかった。最も重視した、元園長個人の過失が認定されなかったためで、「不満と憤りを感じる」と語った。
亡くなった貴弘ちゃんは「ママが大好きで、一時もそばを離れなかった」という。「おもちゃで遊んでいても、他の子が後ろに並んでいたり、泣いていたりしたら自分から譲るような子だった」と振り返り、幼稚園で働く人たちに向けては「一番大事なのは、園児の命を守ること」と訴えた。
事故を受けて、再発防止の取り組みは広がっている。文部科学省は14年6月、「幼児は浅いプールでも溺死する可能性がある」と注意を呼びかける通達を出し、翌年には内閣府による子育て支援の一環として、幼稚園や保育所で起きた事故事例のデータベース化が始まった。ただ、多くの私立幼稚園はこの制度に参加していない。
日本子ども安全学会理事の小佐井良太・愛媛大教授(法社会学)は「現状では公立と私立の区別や、幼稚園と保育所の管轄省庁が違うことから、事故情報が十分に共有されていない。施設の違いを問わずに事例を共有し、検証すべきだ」と話す。(古田寛也)