令和4年11月5日 中国新聞デジタル

子どもの「指導死」、見込んだ教育的効果と問われる配慮 東広島の生徒自殺訴訟

訴訟経過

2012年に広島県東広島市立中2年の男子生徒=当時(14)=が自殺したのは、教員による不適切な指導など「学校側が安全配慮義務を怠ったことが原因」として、両親が市などに約11700万円の損害賠償などを求めた訴訟が広島地裁で続いている。指導と自殺の因果関係や、学校側が自殺を予見できたかが争点。教員の叱責(しっせき)で子どもが死に追い込まれる「指導死」が全国で問題となる中、7日に地裁と原告、被告側双方の2回目の協議があり、訴訟の行方が注目される。

訴状や尋問での証言などによると、生徒は1年生の時から複数の教員による日常的な指導を受けていた。12年10月の自殺当日、休み時間に美術教材のカボチャを廊下に置いたことをきっかけに、教員4人から相次いで指導された。生徒は教室で涙を流し、「自殺した方がいいんかな」との言葉を聞いた友人もいた。

生徒が所属していた野球部を指導する教員男性は当日の放課後、「部活をする資格がない」と声を荒らげて練習参加を禁じた。生徒は用具入れのコンテナにこもり、様子を見に来た別の教員男性に「責任を取ります」などとつぶやいた。下校後、公園で自ら命を絶った。

訴訟で原告側は、生徒に精神的負担を与える指導を重ね、負担を取り除く配慮もないまま、憔悴(しょうすい)した様子の生徒を1人で帰らせたことが自殺につながったと主張。被告側は、指導は教育的効果を見込んだ適切なもので、教員は生徒の自殺を予見できるような事実を知らなかったと反論している。

提訴から7年。この間、原告側が申し立てた証拠保全や文書提出命令の審理が長期化した。21年6月、最高裁が市に一部資料の提出を命じて決着。損害賠償請求訴訟が再び動き出した。

ことし8月の証人尋問で、当時の野球部の指導教員男性は練習への参加禁止について「(自分がしたことを)振り返ってから参加してほしかった」と意図を説明。9月には両親の証人尋問があり、閉廷後に地裁は1回目協議として和解の可能性を探ることを原告、被告側双方に投げかけた。

全国の指導死を巡っては12年7月、岡山市内の県立高野球部マネジャーだった2年男子生徒=当時(16)=が自殺。県教委が設けた第三者委は21年3月、同部監督の暴言や叱責が原因とする報告書をまとめ、「教員の立場を利用したハラスメント」と指摘した。県教委は同年11月、学校側の責任を認めた。福井県池田町では17年3月、担任らの厳しい叱責を受けた町立中2年の男子生徒=当時(14)=が自殺。遺族は20年6月に町と県に対する損害賠償請求訴訟を起こし、22年3月に和解が成立した。(教蓮孝匡)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

Post Navigation