2020年10月19日付東京新聞

わいせつ教員を再び教壇に立たせないで 免許再取得認めないよう法改正訴え広がる

 児童生徒にわいせつ行為をした教員を再び教壇に立たせないよう訴える声が広がっている。現行の教育職員免許法では、教員が懲戒免職で免許を失っても、3年経過すれば再取得が可能だからだ。文部科学省は法の見直しを検討しているが、保護者の団体は「子どもは心に傷を負ったまま大きくなり、言えない子もいる。被害を起こさせないことが大事だ」と強調する。(土門哲雄)
子どもにわいせつ行為をした教員に免許を再交付しないよう訴える保護者ら=9月28日、東京都千代田区の文部科学省で

子どもにわいせつ行為をした教員に免許を再交付しないよう訴える保護者ら=9月28日、東京都千代田区の文部科学省で

◆中学から19歳まで続いた

 「先生を疑うという発想がなかった。自分が悪いんだと思って、言えなかった」。東京都のフォトグラファー石田郁子さん(43)は1日、トークイベントで体験を語った。
「ヒューマンライツ・ナウ」のオンライントークイベントで学校での性被害撲滅を訴えた石田郁子さん

「ヒューマンライツ・ナウ」のオンライントークイベントで学校での性被害撲滅を訴えた石田郁子さん

 石田さんは中学3年の時、男性教員からキスをされた。卒業後もわいせつ行為を受け、19歳まで続いたという。30代後半になって性被害を受けていたと認識し、教育委員会に調査を求めたが、教員は否定。現在まで処分されていない。教委担当者は「事実認定には至らなかった」とする。
 石田さんは2019年2月、賠償を求めて提訴したが、東京地裁は同8月、損害があっても20年で賠償の請求権が消滅する「除斥じょせき期間」を経過したとして、請求を棄却。判決を不服として東京高裁に控訴中だ。イベントで対談したNPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の伊藤和子弁護士は「教師の立場を利用した性犯罪をしっかり処罰していくため、法改正が必要」と話した。
 石田さんは今年9月、子どもにわいせつ行為をした教員を原則懲戒免職にし、免許を再取得できなくすること、第三者委員会による調査を必ず行うことなどを文科省に提言。小中高校生らの保護者でつくる「全国学校ハラスメント被害者連絡会」も同月、わいせつ行為で懲戒処分となった教員に免許を再交付しないよう求める5万4000人分の署名を提出した。

◆過去最多282人処分

 全国の公立小中高校などでわいせつ行為やセクハラを理由に処分を受けた教員は18年度、282人で過去最多。教え子の女児7人への強制性交などの罪で19年12月、千葉市立小学校の元教諭が懲役14年判決を受けるなど、近年、教員によるわいせつ事案は後を絶たない。
 文科省は、子どもにわいせつ行為をした教員を懲戒免職とするよう都道府県教委などに指導。教員免許を失った教員を教委などが確認できるシステム「官報情報検索ツール」の閲覧期間を、現行の直近3年から、来年2月に40年に延長する予定だ。

◆先生を選ぶことはできない

 萩生田光一文科相は9月29日の閣議後記者会見で、わいせつ行為をした教員への対応について「教壇に戻さないという方向を目指して法改正をしていきたい」と話した。
 ただ、教員免許の再取得を認めないことについては、再取得までの期間が定められた他の国家資格との均衡を考える必要があり、更生可能性や冤罪えんざい、職業選択の自由への配慮も必要と指摘した。一方で「弁護士や医者は選べるが、学校の先生は子どもや親が選べない」とも強調した。
 教育評論家の武田さち子さんは「教師がわいせつ行為を否定したら、学校も認めない。傷ついた子どもは『うそつき』と言われてさらに傷つく」と話し、事件や処分になるのは氷山の一角だと強調。「子どもが犠牲にならない仕組み作りを求める」と訴えた。
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