2022年12月19日 付熊本日日新聞

優秀な指導者の「恐怖支配」元教え子の後悔 熊本市 懲戒免職元教諭の体罰や暴言【放置された不適切指導】㊤

「元教諭から毎日のように殴られた」と証言する紫谷星伍さん=熊本市中央区

熊本市教育委員会は2日、42件の体罰や暴言などを踏まえ、市立校に勤務していた元教諭を懲戒免職処分とした。被害に遭った元児童や保護者、教員、元管理職など20人以上の証言から、元教諭の不適切な指導がなぜ放置され続けたのかを考える。元教諭にも取材を申し入れているが、今のところ実現していない。

◇ ◇

天草市の自営業紫谷[しこく]星伍さん(32)は地元の成人式に出席した12年前、小学生の頃に担任をしていた男性の元教諭を見つけた。「やられたこと、全部覚えてますから」とすごむと、元教諭は「俺も若かったけん、本当に悪かった」と謝った。

拍子抜けした紫谷さんは、仕返しするつもりで固めていた拳を緩めた。

元教諭は20194月に自殺した熊本市立中1年の男子生徒の小学6年時の担任。複数児童に不適切な指導を繰り返したとして、2日付で懲戒免職処分となった。

紫谷さんは一連のニュースを見るうちに「あの時、自分が殴っていたら、子どもたちは犠牲にならずに済んだだろうか」と思うようになった。

忘れられない場面がある。「そこに座れ」。元教諭は砂利の上に正座するよう小学4年の紫谷さんに命じ、「痛いだろう」と靴で太ももを踏み付けた。石がすねに食い込み、紫谷さんが泣き出すと、元教諭はにやっと笑ったという。

紫谷さんは忘れ物が多く、元教諭に連日殴られた。「1回で2030発の時もあり、体中にあざがあった」。ある日、登校中に怖くなって公園に隠れた。それがきっかけで周囲が事情を知り、元教諭の行為が校内で問題化。元教諭は手を上げても寸前でやめるようになり、やがて異動した。

紫谷さんが注意欠陥多動性障害(ADHD)と分かったのは、その後だ。

一方、元教諭には担当教科や文化系部活動の優秀な指導者という側面もあった。男子生徒の自殺

を調べた熊本市の詳細調査委員会の報告書には、多くの教職員や児童、保護者が元教諭の指導力を高く評価したとある。男子生徒が通った小学校で指導した部も、数々の賞を獲得している。

男子生徒の友人だった元児童(15)が元教諭について覚えているのは、数秒以内の整列や大きい声での返事、5分前行動などを強要する厳しい指導。「外からは統率の取れたクラスに見えたと思う」としつつ、「恐怖支配だった。返事の声が小さいと、壁に向かって『はい』と何十回も言わされた」と証言する。

報告書によると、元教諭から被害を受けたとする子どもや保護者が不適切な指導の再発防止を求める嘆願書を市教育長に出すと、支持する側は寛大な処置を求める嘆願書を出した。

市教育委員会の複数の担当者が、指導力を評価する声があるため元教諭の処分が保留され続けた

と考えていた、とも報告書は指摘している。

「大人たちが元教諭を教壇から引きずり降ろす機会はいくらでもあった。成人式で仕返しをやめた私も、動かなかった大人の一人なんです」。紫谷さんは今も後悔している。(植木泰士)

 

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