勝利至上が生む「ブラック部活動」、コロナ機会に再考を

令和2年9月9日付朝日新聞岐阜版

岐阜県内の中学や高校の部活動で、顧問による暴力や暴言が後を絶たない。2012年には大阪・桜宮高の男子バスケットボール部主将が顧問から受けた体罰などを理由に自殺し、大きな社会問題となった。その後もやまない部活動における体罰やコロナ禍の部活動の将来などについて、「ブラック部活動」の著書がある名古屋大学の内田良准教授(44)に聞いた。

――部活をはじめ学校の中での体罰がなかなかなくなりません。なぜですか。

「日本では、スポーツ活動全般について、厳しいトレーニングによって人を育てるという価値観が根強い。根性論と言われますが、厳しい状況を乗り越えて強くなる、たたかれて強くなるという考え方が依然としてある。だから暴力を正当化してしまう」

ブラック部活動

部活動について語る名古屋大学大学院の内田良・准教授=2020年3月、名古屋市千種区、山下周平撮影

――どう指導すれば良いのでしょう。

「今は人を脅して育てる時代ではない。自分で考える人間を育てるのが教育です。体罰や恐怖による指導はいらない。たとえ教育効果があっても体罰はやめるべきだと考えます」

「体罰について、先生に聞くと、『あれは指導』だと言い、生徒は『先生が真剣に怒ってくれたおかげで自分は育った』と話す人が大勢いる。つまり、体罰には一定の教育効果があるんだろうと思います。しかし、指導と体罰が一体化し、その境界を見えなくしている面があります」

――学校では体罰に反対する声はなかなか表に出てきませんが。

「部活や校則など学校で起きる問題に共通するのが、『これはおかしい』とみんなが思っているのに、声が上がらない、上げられないという点です」

「部活について言えば、試合に勝つことが目標になると、顧問の権限が強くなる。暴力を目にし、おかしいと思いつつ文句を言ったら、レギュラーになれなくなるかもしれないし、いじめのターゲットになりかねない。こぼれ落ちる恐怖があるから、生徒たちはなかなか声を上げられない。そのうちに、その文化に適応してしまう現実がある」

――どうすれば、体罰は減らすことができますか。

「顧問の力が強いので、部活をまず学校から切り離す、内申書や入試から切り離すことが重要です。週3日くらいのゆとりある活動にしていく。勝利至上主義ではなく、趣味のような場にしていく必要があります。こうした動きはすでに加速していて、文部科学省は教員の働き方改革の一環で、土日の部活の指導を教員に担わせず、地域の活動とする改革案を

まとめています」

――コロナ禍で部活も大きな影響を受けました。部活はどこに向かいますか。

「今年、多くの部活動の全国大会は中止になりました。練習時間も減らされた。強制的ですが、この夏、体験したことは部活動の理想型です。代替的に行われた交流試合などにより、子どもたちは勝ちにこだわらず、スポーツや文化を楽しむことができた」

「部活は楽しく、達成感や一体感を味わうことのできる意義があります。だからこそ、体罰を含め過熱してきました。しかし、教員の働き方改革が進む中で、教育課程外の部活はそもそも縮小の方向に進んでいます。この夏、経験した『縮小』の意味を考え、部活動のあり方を見直す契機と捉えるべきなのです」(聞き手・山下周平)

うちだ・りょう 1976年、福井市生まれ。名古屋大学経済学部卒業後、児童虐待などに関心を持ち、教育学の世界へ。専門は教育社会学。柔道や組み体操などの事故についての研究で知られ、教員の働き方改革や校則など学校問題全般について発信をしている。

 

岐阜県内であった暴力・暴言の事例

・私立高校剣道部で、女性コーチが部員を平手打ち

・県立高校野球部で、男性監督が木製バットで部員の頭をたたく。「死ね」「消えろ」などの暴言も

・公立中学校剣道部で、男性顧問が耳をけがした部員に、「反対側も聞こえなくしてやろうか」と暴言

・県立高校野球部で、男性監督が部員にメガホンを投げる。「死ね」「消えろ」などの暴言も

・公立中学校ソフトテニス部で、社会人指導者の男性が部員の足をける

・県立高校の女子ハンドボール部で、男性コーチが部員3人の足をける

・県立高校の女子バスケットボール部で、男性顧問が部員にパイプ椅子を投げつける。

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