2021年2月15日付朝日新聞

大阪の校則裁判に海外から注目 明るい色の髪は「罪」か

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府立高校の元女子生徒が起こした黒染め訴訟は海外ニュースメディアも報じた

 校則通り、茶髪を黒く染めなさい――。高校生に「髪形の自由」は認められるのか。髪形を生徒の自主性に任せすぎると就職に悪影響があるのか。海外メディアも注目した日本の「校則」をめぐる裁判の判決が16日、大阪地裁である。校則ってなんだろう。さまざまな議論が広がる。

「染色・脱色の禁止」。大阪府立のある高校の生徒手帳には、こんな校則が載っていた。

府を訴えたのは、元女子生徒。

訴えによると、生徒が2015年4月に入学すると、生徒手帳には「頭髪は清潔な印象を与えるよう心がけること」とあり、続けて「パーマ・染色・脱色・エクステは禁止する」と書かれていた。「私は地毛が茶色。黒染めする必要はない」――。そう思った。

争点となっているのは、まず、こんな内容の校則が合法かどうかだ。

 生徒側は、どのような髪形にするのかは生徒の自由で、校則は憲法13条が保障する自己決定権を侵害するものだと訴える。

 学校側は、「染色・脱色」は、生徒の関心を勉学やスポーツに向けさせ、「非行防止」につなげるという教育のためで適法だと反論する。

 頭髪指導をめぐる裁判は過去にもあった。

 古くは私立大学の学生の退学処分をめぐる裁判で、最高裁は1974年、「学校で教育を受けるかぎり、その学校の規律に服することを義務づけられる」と言及し、学校には

学則の制定権があるする一方、学則の内容が「社会通念に照らし、合理的な範囲」な場合に認められるとした。

 「丸刈り」の校則が合法かどうかが争われた裁判で、熊本地裁は85年、校則を決める学校の裁量を広く認め、合法とした。

 また茶髪にした奈良県生駒市立中学の元女子生徒が「黒染めを強要されたのは体罰だ」と市を訴えた裁判では、大阪地裁、高裁は2011年、「教育的な指導の範囲内で

体罰にはあたらない」として訴えを退け、判決は最高裁で確定した。

 ライフスタイルの自由が尊重される傾向にある近年、高校生に対する「染色・脱色の禁止」という校則を裁判所がどう判断するのか、注目される。

 そもそも、女子生徒の「地毛の色」は何色だったのかも争われている。

 母親によれば、生徒の髪は「生まれつき茶色」と学校側には何度も説明したが、聞き入れてもらえず、繰り返し黒染めを指導されたという。生徒は指導に応じたが「黒染めが

不十分だ」などとして、授業への出席や修学旅行への参加を認めないこともあり、生徒は不登校になって精神的損害を受けたとも主張する。

 これに対し、学校側は、教師たちは、生徒に頭髪指導をした際、生徒の頭髪は根元から黒色だったと確認しているという。生徒の地毛の色はあくまで「黒色」だと反論する。

(米田優人)

「日本の学校では明るい色の髪の毛は罪になる」

 この裁判は、校則のあり方をめぐって、国内外で大きな反響を呼んだ。

 2017年10月、各新聞社が女子生徒が府を訴えたという内容を報じると、ロイター通信は「調和を文化とする日本では、多くの学校でスカートの長さや髪の色に厳しい校則が

ある」と配信。英BBC(インターネット版)は「日本の生徒は髪を黒く染めさせられる」との見出しで報じた。「日本の学校では明るい色の髪の毛は罪になる」と皮肉った英字

ニュースサイトもあった。

 国内でも、元AKB48メンバーで、俳優の秋元才加さんが同様の経験があったとして「規則は大事だけど、大事な事、もっとあるはず、ってその時思ったな」とSNSに投稿するなど

著名人らも発言した。

 報道の翌11月、大阪府教育委員会は、府立の全高校にアンケートした。全日制では137校のうち9割以上の127校で、校則や指導方針のなかで「髪の染色や脱色」を禁止

していたが、府教委は「不適切と思われる校則や指導方針はなかった」とした。

 ただ、長年見直されない校則のままの学校も少なくなかったことから、府教委は「必要に応じて、時代に合うよう改めるよう」指導した。生まれつき髪が茶色だったり「天然パーマ」

だったりする生徒たちがいることに配慮し、「茶髪」禁止の表現を「染色・脱色」と見直した学校や、「パーマ」禁止とあったのを「故意のパーマ」と加える学校などもあった。

 同年の朝日新聞の調査では、全日制の都立高校の約6割で髪の毛を染めたり、パーマをかけたりしないか確認するため、「地毛証明書」を出させている実態も明らかになった。

 府教委の酒井隆行教育長は朝日新聞の取材に、「裁判は校則のあり方や指導について問題提起になった。学校、生徒、保護者が議論し、しっかりと合意がなされるよう指導

していきたい」と話す。

 学校現場からは、頭髪指導や校則の必要性を訴える声も依然としてある。

 ある府立高校の校長は「進学校の子だと『おしゃれ』とされる茶髪でも、勉強が苦手な学校の子だと『ガラが悪い』と見られがちだ。偏見がある以上、校則で髪の色を定めることは

生徒を守ることにつながる」と話す。

 別の府立高校では、この裁判が起きた後も、入学時に「地毛の色の登録」や、染色や脱色をしないよう指導を続けたという。同校では大半の生徒が卒業後、就職を目指す。

校長は「校則を通じ、身だしなみやマナーを習慣化する必要がある。就職活動ではそうした点が見られることも多いからだ」と語る。

 学校現場の実情に詳しい大阪大学の小野田正利・名誉教授(教育制度学)は「髪の色は個性のひとつとして尊重すべきだ。いまは就職などでも必ずしも茶髪が不利になる時代

ではない」と指摘。「学校側が『その人らしさ』を認め、時代にあわせて見直していくべきだ」とする。(山田健悟、米田優人)

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