平成30年7月19日毎日新聞
救急要請遅れか マニュアル具体的指示なし
梅坪小1年男児の死亡について会見する豊田市教委の鈴木直樹・学校教育課長(左)と藪下隆・梅坪坪小校長=豊田市役所で2018年7月18日午後5時25分、中島幸男撮影
ほとんど日陰のない和合公園=愛知県豊田市京町で2018年7月18日午後1時29分、中島幸男撮影
愛知県豊田市立梅坪小1年生の男児(6)が17日に校外学習後、熱射病で死亡した。同市では18日も最高気温39.7度と連日の猛暑が続く。授業中の痛ましい事故はなぜ防げなかったのか、再び悲劇を繰り返さないための対策は。【中島幸男、岡村恵子、三浦研吾】
「大事な命を守れず本当に申し訳ありません」。一夜明けた18日朝、体育館で全校児童約730人を前に籔下隆校長が謝罪した。
男児は学校へ戻ると風通しの良い教室の一角で休んだが、体調が急速に悪化、20分後に意識を失った。119番し病院へ向かったのはその20分後だった。市教委は「養護教諭を教室に呼んで対処したり、AED(自動体外式除細動器)で救命措置をしたりしており、搬送までにロスした時間はない」と説明する。
しかし、日本救急医学会の対処法では、軽症の「1度」でも改善しなければすぐ病院へ搬送を求める。一方、市教委が5月に各校に配布したマニュアルには「適切な処理を行う」とあるだけで、どんな症状なら急いで119番すべきかなど具体的な指示はない。県教委によると、初任者研修のほか熱中症を扱う教員研修はないという。
熱中症に詳しい三宅康史・帝京大病院高度救命救急センター長は「そもそも帰り道で男児が『疲れた』と言った段階で歩かせるのをやめるべきだった」と指摘。「子どもは暑い場所に長くいるのはよくない。単に日陰でなく冷房のきいた場所で『質のいい休憩』が必要で、車を同伴し体調が悪くなったら乗せるなど安全への工夫が不可欠だ」と求めた。
県内の小中学校のエアコン設置率(昨年4月)は27.8%と、香川県92.3%や東京都84.5%より少ない。太田稔彦市長は2021年までにエアコンを全校に新設する計画の前倒しを表明した。
市長「対策不十分だった」
校外学習をした和合公園は約1万1000平方メートルと広く、あずまや2棟のほか強い日差しを遮る樹木はほとんどない。18日昼も耐えがたい暑さで人影はなかった。
太田市長は18日の定例会見で「対策が不十分だった。中止の判断もあり得た」と陳謝した。県教委も同日、県内の公立校に対し「熱中症が危惧される場合は行事の縮小・中止も検討を」と再発防止策の徹底を通知したが、中止の判断基準は示していない。
熱中症の研究に取り組む国立環境研究所の小野雅司・客員研究員(環境疫学)は事故の当時、5日連続で愛知県内に高温注意情報が出ていたことに注目。「暑い日が続くことで体に疲れが蓄積しており、明らかに危険な状況だ」と指摘する。さらに、今の生活様式が続く限り、地球温暖化で熱中症の患者は今後増えると強調。学校や公共機関などは天気予報だけでなく、熱中症の危険度を知るため、環境省が明後日までの各地の予測値を公表している「暑さ指数」を見て、指針に従うことが必要だと訴えた。
暑い中なぜ…保護者説明会
豊田市立梅坪小では18日夜、保護者への説明会が開かれた。約400人が参加して2時間続き、十数人から発言があったという。6年生の父親は「校長は判断ミスだと謝罪した。
泣いている保護者も多く、私はただ悔しい気持ち」と話した。
後半は保護者から今後の対策や対応についての質問が集中したといい、別の児童の父親は「なぜこんな暑いのに外に出したのかという厳しい意見も出て、私も同じ気持ちだ。しかし、学校が今後、親から集めた意見を取り入れて対策を取ると示したので期待したい」と苦渋の胸の内を明かした。
終了後、籔下校長は報道陣を前に今後の対策を説明した。学校としての熱中症マニュアル作成▽「暑さ指数」に基づく「熱中症メーター」を校内6カ所に設置▽授業中に水分補給の時間を設ける▽塩分補給タブレットや保冷剤入りのクーラーボックスを用意する--などの内容。学校行事の中止や延期などの見直しも進めるとし、まずは来週開かれる予定だった市内6小学校の合同スポーツ大会が中止になったと話した。籔下校長は事故当日の対応について「別のやり方があったはずだ」と述べ、学校の責任に言及した。【黒尾透】