平成28年11月5日 朝日新聞
有識者会議のいじめ防止提言、どう読む 尾木さんに聞く
尾木直樹氏=東京都千代田区の法政大
■教育評論家・尾木直樹さんに聞く
いじめ防止を話し合ってきた文部科学省の有識者会議が同省への提言をまとめた。今後、提言がいじめ防止対策推進法の改正につながる可能性もある。教育評論家の尾木直樹さんに、どう読み解いたらいいか聞いた。
――提言を読んだ感想はいかがですか。
私の満足度は高い。最大のポイントは、教職員にはいじめの情報を学校の対策組織に報告・共有する義務があると改めて強調し、懲戒処分に言及した点だ。「罰則」については3年前、法律を作るときも議論になった。だが、当時は教育現場にはなじまない、との結論だったし、私自身も「ちょっと待て」という立場だった。
ただ、この3年間だけでもいじめの情報が共有されず、何人もの子どもが自殺する事態を招いた。情報共有しないのは、明らかな法令違反であり、処分の対象にするべきだ。
教職員の日常業務で、自殺予防といじめへの対応を最優先に位置づけるよう促すことが盛り込まれた点も評価したい。
学校現場に行くと、校長先生に「いじめ対策組織の会議はどの程度機能していますか」と必ず聞き、構成メンバーも尋ねる。生徒指導の委員会と兼ねている学校が多い。そして、多くの校長は重ねて「いじめ対策組織の会議はやりたいけれど、忙しくてなかなかできない」と言う。それではいけない。いじめ対策は命にかかわるもので、職員会議や学年会議、
部活指導などより圧倒的に大事だ。月に2回とか毎週とか、定例的にやらないといけない。
――法に位置づけられた「いじめ対策組織」が十分認識されていないとの指摘があります。
ある学校のPTA会長が、いじめられている子の親に相談を受けて担任の先生に伝えたのに、学校がなかなか動いてくれないとぼやいていた。そこで私が「いじめ対策組織」に頼むよう提案したら、その会長は「うちの学校にはありません」と。
学校が組織の存在を周知していない。重大な事件が起きているのは、こういう学校だ。
提言には、いじめ対策組織の先生が朝礼であいさつするなど、組織の存在を子どもや保護者に知らせる取り組みが盛り込まれた。こんなことを3年たって書かないといけないのは恥ずかしいと思う。
――加害者側への指導という観点からはどうですか。
「いじめという言葉を使わず指導する」と提言に入ったのは画期的だ。現場での長年の経験からいえば、「お前、それいじめだぞ」と言っても、ほとんどの子は認めない。本当にふざけているつもりの子が圧倒的に多い。だからいじめという言葉を使わず、相手の子のつらさを理解させることが大事だ。こんなに苦しんでるんだよ、君がされたらつらいでしょ、だからもうやめようよ、君ならできるよ、と持っていく。内容で迫り、納得して申し訳なかった、と理解できるようにするべきだ。
一方、被害者の側には、いじめという言葉を使う。決して許されない人権侵害だよ、と言わなきゃいけない。
――提言には「児童生徒の主体的な参画」という要素も入りました。
法律ができる時、参院での付帯決議に「児童等の主体的かつ積極的な参加」という文言が入ったが、衆院での決議には入らなかった。学校の主役は子どもたちなのに、いじめ防止活動に子どもが参画する、という発想が衆院には理解されなかった。子ども観が古かった。
いじめが起きたらその日のうちにクラスの半分はわかるし、子どもの参加によってダイナミックな活動ができる。子どもの主体的な参画が盛んな京都市では、いじめを認知する割合が高い。やっと今、その重要性が理解されるようになってきたと思う。
――いじめ防止対策推進法を改正して盛り込むべきだと考える点はどこですか。
いじめへの対応を最優先に位置づけたこと、情報共有、それと児童生徒の主体的な参画、の三つだと考える。
(聞き手・片山健志)
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〈いじめ防止の提言〉 文部科学省の有識者会議がまとめた。いじめを教職員の業務の最優先事項に位置づけ、いじめの情報共有が義務であると周知▽いじめの認知件数が少ない都道府県に文科省が個別指導する▽学校の「いじめ対策組織」に外部の人材の参画を進める――などを盛り込んだ。
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おぎ・なおき 1947年生まれ。法政大教職課程センター長・教授。東京都内の私立高、公立中教員として22年間、子どもを主役とした教育実践を展開。