平成30年6月8日付毎日新聞

葛飾・中3自殺 区長「いじめに該当」 第三者委報告覆す

 いじめが「自死への衝動に影響、可能性は否定できない」とも

東京都葛飾区立新宿(にいじゅく)中3年の男子生徒(当時)が2014年4月に自殺した問題で、青木克徳区長は7日、区の見解を公表し、ジャージーを下ろそうとされたなどの行為は、いじめ防止対策推進法に定義されたいじめに該当すると結論づけた。「いじめと認められない」とした第三者委員会の報告書を覆した形だ。青木区長はさらに、いじめが「自死への衝動に影響を与えた可能性は否定できない」とも踏み込んだ。【川村咲平、福沢光一】

いじめの定義について、いじめ防止対策推進法は「心理的、物理的な影響を与える行為で、対象となった児童らが心身の苦痛を感じているもの」と定義する。しかし第三者委は、法律ではなく「社会通念上、いじめと評価できる行為」を基に判断。他の生徒が男子生徒に霧吹きで水をかけたり、ジャージーを下ろそうとしたりした行為は「いじめと認められない」と答申した。

青木区長は同日開いた記者会見で、第三者委の報告書を「率直に受け止める」とする一方「区の責任として問題を考えた場合、いじめの定義は法律に照らして広く捉える必要がある」と指摘。「小さなきっかけをいじめと認識し、速やかに発見して適切に対応すべきだ、という区の強い思いを反映した」と説明した。

区によると、3月に報告書が発表された後、内容に関して区に数十件の問い合わせがあり、大部分は「いじめと認定すべきではないか」という意見だったという。

青木区長が公表した見解には、今後の対応策も盛り込まれた。「心身の苦痛を感じる行為はいじめで、重大な結果につながる可能性がある」との認識に立ち、児童や生徒に命の大切さや思いやりについて繰り返し指導することを明記。区長や教育委員会で構成する総合教育会議で、生徒の心身の安全に配慮した指導体制などを検討し、再発防止に取り組むとしている。

男子生徒の自殺をめぐっては、区教委が当初、遺族などに「事故死」との認識を示し、不服申し立てを受けて再調査を始めた経緯がある。青木区長は「初動で十分に対応できなかったことは反省している」と陳謝。「区としての結論(見解)を出したことは前進で、再発防止に努力したい」と述べた。

教育評論家の尾木直樹さんの話 区が「いじめ」と認めたことを評価する。第三者委の「社会通念上、いじめではない」という答申を排除し、いじめ防止対策推進法に基づき認定した。

第三者委は批判されるべきだ。いじめと自殺の因果関係を「可能性は否定できない」と結論付けたのは半歩前進。ただ、いじめと自殺の因果関係を認定することは非常に難しい。

 

葛飾区の中3自殺「いじめ」調査の経緯

2014年 4月 9日 区立新宿中3年の男子生徒が部活動のペア決めがうまくいかず黙り込み、他の部員にジャージーを下ろそうとされたり、霧吹きで水をかけられたりした。

男子生徒は学校を出て自殺した

14年 6月 4日 生徒の両親から、部員らへの聞き取り調査を求める要請文が学校に届く

14年12月 1日 区教委に「学校の調査が不十分」として再調査を求める要請文が両親から届く

14年12月15日 区教委が両親に「再調査の予定はなく、いじめを起因とした事案ではない」とする文書を送付

15年 2月 4日 両親の代理人弁護士が区教委に再調査を求める文書を送付

15年 2月13日 区教委が「いじめ・不登校対策検討委」を設置すると弁護士に返答

15年 3月18日 検討委は「継続的ないじめはなく、遺書等もないため、生徒たちの行為と死亡について因果関係があるかどうかは、ないと言わざるを得ない」と結論

15年 9月16日 弁護士が再調査を求める文書を青木克徳区長に送付

15年11月 6日 区教委が見解を改め「いじめと評価しうる行為」とした文書を弁護士に送付

16年 3月28日 区が第三者委員会を設置

18年 3月28日 第三者委員会は「遊びの範囲内で社会通念上のいじめに当たらない」とする報告書を青木区長に答申

18年 6月 7日 青木区長が答申を覆し、一連の行為を「いじめに該当する」とした区の見解を公表。自殺への衝動に影響を与えた可能性も「否定できない」とした

 

「いじめに該当、正しい判断」自殺男子生徒の遺族がコメント

自殺した男子生徒の遺族は7日、コメント文を発表した。他の生徒から受けた一連の行為を、区が「いじめに該当する」と結論づけたことに「正しい判断をしていただけた」と一定の評価を示した。

一方で、いじめが自殺に影響を与えたかどうかについて、区が「可能性は否定できない」と判断したことに、「影響があったと明確に判断されなかった点は、大変残念に思う。

大きく影響したと考えている」という思いを表した。

第三者委員会が3月「いじめによる自死とは認められない」とする報告書を答申した際、遺族は「思いもよらない内容で、到底納得することができない」として、報告書の再考を求めていた。

この日取材に応じた遺族側代理人の弁護士は、遺族が現在、第三者委がどのような検討を重ねたのかを検証していると明らかにした。ただ、遺族はコメント文の中で「いまだはっきりしないことも多々あるが、長い時間の経過を考えると、これ以上の調査は難しいものと受け止めている」とも記している。

弁護士は「静かな生活を送りたいと望む一方で、何があったのか知りたいとも考え、葛藤し続けてきた」と遺族の心境を代弁し、法的措置を含む今後の対応について「具体的に考えていることはない」と述べた。

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