平成30年11月16日朝日新聞岩手版
部活動、精神論から脱却を 生徒の自殺に研究者は
県央部の県立高校に通うバレーボール部員の男子生徒(当時17)が自殺した問題で、遺族は16日、男子生徒の顔にボールを投げつけたとして、顧問の男性教諭(41)を暴行容疑で刑事告訴する。遺族側は行きすぎた指導が自殺につながったと主張しており、県教委は第三者委員会で調査する方針だ。体罰を根絶する動きが進む中、スポーツの現場でたびたび
問題が発覚する背景などを宮城教育大の神谷拓准教授(スポーツ教育学)に聞いた。
――どのような状況で体罰が起きるのでしょうか 体罰やハラスメントが起きる一因として、運動部に精神論を持ち出すことがあげられます。暴力で生徒たちが鼓舞されたり、励まされたりすると考える指導者は少なくありません。
最近の部活動は勝つことが目的化されがちです。公立校にも推薦入試が導入され、競技成績は志望校の合否を決める重要な要素になりました。この勝利至上主義的な環境が「気合を入れる」ための暴力を正当化する要因になるのです。
――なぜ精神論を持ち出すのでしょうか
学校の教科には「学習指導要領」があり、どの程度の時間で何を教えるのかが明記されています。ただ、部活動にはこれがありません。指導者は何をすればいいのかわからない状態で、自身の経験を参考にします。指導者が過去に体罰を受けていれば、生徒たちにも同じことをする可能性があります。
――どうすれば暴力に頼らない指導ができますか
部活動の指導内容を明確にする必要があります。部活動を行うために必要なことを「試合で使う戦術を決める」「用具の準備や管理をする」のように項目別に整理していきます。
顧問や外部指導者など大人が受け持っていたものでも、生徒たちで出来ることは話し合って任せます。定期的に活動を見直す機会を設ければ、部活動で身につけた能力を可視化できます。
――生徒たちと一緒に部活動を運営すれば、体罰はなくせるのでしょうか
具体的な達成項目を作れば、暴力に頼らない指導ができます。部活動は本来、競技の勝ち負けを目的にしたり、精神論をかざしたりするのではなく、生徒たちが組織の自治を経験
する場です。教師とは計画に沿って生徒たちに能力を身につけさせる専門家なのです。
――体罰を受けたらどうしたらいいでしょうか
スクールカウンセラーや自治体の窓口に相談してください。外部の人なのでしがらみはありません。体罰の実態を説明するため、体罰を受けた日を記録したり、その場面を録画・録音したりしておくのも有効です。体罰は絶対にあってはならないこと。決して1人で抱え込まないでください。(聞き手・御船紗子)
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かみや・たく 1975年生まれ。宮城教育大准教授。専門はスポーツ教育学、体育科教育学。著書に「生徒が自分たちで強くなる部活動指導」(明治図書)など。