平成28年1月31日神戸新聞

龍野高部活訴訟 両親ら会見 「安全な部活動に」

龍野高部活訴訟 

会見終了後、両親が寄り添うと、梨沙さん(中央)の表情が明るくなった=30日午後、神戸市中央区橘通3

兵庫県立龍野高校(たつの市)で2007年5月、テニス部の練習中に熱中症で倒れ、重い後遺症を負った女性と両親らが30日、学校側の責任を認める大阪高裁判決が確定したことを受け、神戸市内で会見した。

両親は事故からの9年を「学校側から疎外され警戒され、苦しみ抜いた」と振り返り、県教育委員会に「生徒の自主性に頼らず、安全な部活動に改善を」と訴えた。(上田勇紀)

女性は梨沙さん(25)=兵庫県太子町。事故後、“植物状態”となり、24時間の介護が必要だ。

事故の日は、梨沙さんが主将になり、顧問不在で初めての練習日。梨沙さんは指示されたメニューに沿い、部員の先頭に立ち頑張った末に倒れた。

3時間の練習に、休憩は設けられていなかった。中間試験の最終日で、近くの最高気温は27度。試験勉強で睡眠時間は少なく、11日ぶりの部活動だった。

母弘美さん(53)は「今日から部活始まるんだ」と、元気に家を出た梨沙さんの笑顔が頭から離れない。

勝訴が決まった今も「娘を守ってやれなかったことが悔しい」と涙をぬぐった。

父正則さん(53)は「途中でやめたら怒られる。なのに責任感を持って忠実に練習して倒れたら『自業自得』。

学校側は事故の原因を調べようともしなかった」と憤る。

裁判では、「生徒の自主性」が争点に。一審は、部活動は自主的な活動として「自らの判断で休憩を取れた」とした。しかし、確定した二審判決は「顧問は部員の健康状態に危険が生じないよう指示・指導すべき義務がある」と指摘。たとえ練習に立ち会えなくても、生徒の体調や天候を考慮して事前に指示するよう、顧問に大きな責任を課した。

県教委は昨年12月の判決確定後、「あらためて生徒の自主性を重んじ、対話重視の指導を行う」とした。

だが、原告側代理人弁護士・渡部吉泰さんは「部活動の実態は自主性とかけ離れており、県教委の姿勢は責任を免れたいとしか受け取れない。従前通りの対応では、同じ事故がまた起こる」と疑問を投げ掛けた。

両親らは近く、県教委に対し、指導者に熱中症の研修を義務化することや、科学的で安全な部活動に改善することを要請。井戸敏三知事にも事故を起こさないルール作りを求める。

 

【龍野高校部活動訴訟】

2010年4月、両親らが「学校側が安全配慮義務を怠った」として兵庫県を提訴。一審神戸地裁判決は熱中症を認めず、「顧問は事故を予見できなかった」として、請求を棄却した。昨年1月の二審大阪高裁判決は熱中症を認定し、顧問は「水分補給のための休憩時間を設けなかった」などと学校側の責任を認めた。最高裁は昨年12月、県の上告を棄却。将来の介護費用などを含め約2億3千万円の支払いを命じた二審判決が確定した。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

Post Navigation