【10月6日付 河北新報】

報告書について説明する第三者調査委の野村委員長(左)

天童一中1年の女子生徒=当時(12)=が昨年1月に自殺した問題で5日、いじめが主要な原因と認定した報告書をまとめた第三者調査委員会や、市教委、遺族の代理人が相次いで記者会見した。
調査委の野村武司委員長は「いじめの兆候となる情報を取捨選択せず、組織的に共有すべきだ」と指摘。市教委は遺族に初めて謝罪するとともに会見で「将来ある尊い命を救うことができなかった」と頭を下げた。遺族の代理人は、市教委から報告を受けた母親の様子を「学校や教育委員会の責任を追及する場面があった」と述べ、意見書を提出する方針を明らかにした。
「いじめへの理解が十分でなく、場当たり的な対応にとどまった」。134ページに及ぶ報告書を提出した野村委員長は記者会見で、担任教諭や部活動顧問を含む学校側の対応を「暴力を伴わない心理的ないじめも過小評価せず、微細な事実を重大な事実と受け止めるべきだった」と厳しく断じた。
女子生徒の母親は担任に2度も相談し、女子生徒自身も学校の調査に友達関係の不安を訴えたが、女子生徒の自殺後、学校側はいじめを認識した教職員が一人もいなかったと説明した。
「教師が知らず知らず情報の重要性を選別し、(いじめの)兆候となる情報を組織的に共有する意識に欠けていた。情報の価値、重みを選別せず全ての情報を共有すべきだった」と不備を追及した。
調査委は生徒や教職員、遺族らへの聴取から断片的な事実を把握し、いじめの全体像をあぶり出した。
暴力行為は認められなかったものの、「日常的な悪口や嫌がらせ」があったと断定。2014年1月7日、女子生徒は「死を決意して自宅を出たと考えられる。人間関係から逃れたい思いだったのだろう。決して、衝動的に死を選んだわけではない」と推し量った。
野村委員長は会見中、「ひょっとしたら、加害生徒は今も重大ないじめと思っていないかもしれない」と再三、懸念を口にした。報告書を加害生徒への指導に生かすことを強く求め、「亡くなった女子生徒がどんな思いだったか、よく考えてほしい」と強調した。
報告書には、再発防止に向けた八つの提言を盛り込んだ。子どものSOSを見逃さない対策と心構えを
具体的に記した。
「いじめを受けている子どもは『大丈夫か』と聞かれ『大丈夫』を装うのが普通。だから、いじめがあると言った時は事態は相当に深刻。わずかな変化に留意し、子どもを守るため適切な対応を取る必要がある」と指摘した。

<天童いじめ自殺>市教委が謝罪

報告書を受け、記者会見で謝罪する天童市の佐藤教育委員長(中央)ら 「将来ある尊い命を救えなかったことを衷心よりおわびする」。市教委の佐藤通隆教育委員長、水戸部知之教育長、相沢一彦天童一中校長は記者会見で頭を下げた。「報告書の指摘や提言は厳粛かつ謙虚に受け止め、いじめのない学校づくりに取り組む」と語った。
今春に定年退職した石沢照夫前校長の後を継いだ相沢校長は「学校が生徒の(SOSの)サインを受け止めた時、見過ごして良いものかどうかの見極めが十分でなかった。(いじめの)迅速な把握、対応にも課題があった」と釈明した。
水戸部教育長は「子どもの痛みを感じ取ることが基本だったろう。温かい人間関係ができているのかどうか、見極める力が私たちには求められる。あらためて、これでいいのかと問い直したい」と神妙に話した。
報告書の内容は遅くとも11月末までに、加害生徒を含む在校生に伝え、「いじめを強く認識させる指導」(相沢校長)を行う。加害生徒と保護者、関係教職員には遺族に謝罪するようあらためて指導する。
水戸部教育長は女子生徒の自殺後、市議会答弁などで「重い責任を感じる」と語っていた。記者会見では「責任の全うは辞めることではない」と強調し、佐藤委員長とともに引責辞任しない考えを明らかにした。

<天童いじめ自殺>遺族代理人「評価できる」

遺族代理人の安孫子英彦弁護士は5日、天童市内で記者会見し、報告書でいじめの事実といじめが自殺の主要な要因であることが認められた点に関し「評価できる内容だ」と話した。
市教委から報告と、初めて謝罪を受けた遺族の様子について「あらためて娘さんが亡くなったことに感情がこみ上げ、学校や教育委員会の責任を言葉にして追及するような場面があった」と明かした。
遺族は今後、報告書の内容を精査し意見書の提出を予定しているという。損害賠償請求など訴訟の提起は「選択肢として否定するわけではないが全く未定」と説明した。

<天童いじめ自殺>遺族がコメント発表

第三者調査委員会の報告書提出を受けて、遺族はコメントを発表した。全文は次の通り。

今回の報告書では娘がいじめられていたことが認められ、娘の残したノートに書き記したことが真実であったことが明らかになりました。いじめた側の責任や、いじめをやめさせられなかった担任や(部活動)顧問の責任は重いと思います。学校側が対応できなかったことについても、あらためて憤りを感じます。本日教育委員会から、謝罪を受けましたが、対応が遅く、父親に報告できなかったことは残念でなりません。もっと遺族に寄り添った対応があったら、こんなに時間が掛からなかったと思うと、返す返すも残念です。

<天童いじめ自殺>闘病の父、報告待たず死去

「娘はなぜ死を選ばなければならなかったのか」
女子生徒の死後、問い続けてきた父親が9月9日、第三者調査委員会の報告を受ける直前にがんのため
亡くなった。45歳だった。
自殺直後、娘の部屋からいじめを記したノートを見つけた。
「陰湿な『イジメ』にあっていた」「ダレカ、タスけテよぅ。私ヲ、『生』かしテヨゥ」 命を救えなかった自責の念にも駆られながら、事実関係の把握に動かない学校に対し、ノートの存在を伝えて徹底した調査を求めた。全校生徒に対するアンケート前には全校集会に出席し「本当のことを答えてほしい」と強く訴えた。
真実を知りたいという思いは、学校、市教委側との衝突につながった。第三者委に中立、公平性を求め、設置要綱と委員の人選に妥協はしなかった。
父親は取材の度にうつむきながら話した。「娘のことを考えない日はない。喪失感はいくら時がたっても消えない」。いじめの実態が「闇へ葬り去られるのではないか」と恐怖感も吐露していた。
いつも手には資料をまとめた膨大なファイル、幾度も読み返し無数の赤線が引かれたいじめ防止対策推進法の解説本があった。
ことし春から病状が悪化し、痛みに顔をゆがめる瞬間も多かった。初夏に会った際には「納得のいく調査結果を見るため、頑張りたい」と気丈に話していた。
第三者委が9月28日、いじめが自殺の主な要因と認定した報告書の概要を母親に説明した時、共に闘ってきた父親の姿はなかった。(山形総局・伊藤卓哉)

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