平成28年3月13日 中国新聞社朝刊より

緊急連載
府中町中3自殺

解明と心のケア両輪に

再生への道
<下>
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文科省の特別チーム初会合で、徹底的な調査
と再発防止策の検討を求める馳氏(中)(10日)
 広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒=当時(15)=の自殺を受け10日、文部科学省であった同省特別チームの初会合。「本来は希望に満ちたものである進路指導を受けて生徒が自殺するという最悪の事態に陥った」。馳浩文科相は厳しい口調で語り、原因究明と再発防止策の検討を指示した。
生徒は担任から、1年生の時に万引したという誤った記録に基づく進路指導を受け、志望高への推薦を得られないと告げられた後、死を選んだ。学校がまとめた調査報告書は、指導用資料のずさんなデータ管理や配慮を欠いた指導などが重なり「学校としての責任があった」と結論付けた。
指導死-。教員の指導をきっかけに自殺に至るケースをこう呼び、問題提起する動きが広がっている。
「指導死」親の会代表世話人の大貫隆志さん(59)=恵只都中野区=は2000年に中学2年の次男を失った。「周りが取るに足らないと思うことでも、子どもにとっては重大なことがある。個人の性格に原因を求めるのは間違いだ」

乏しい手掛かり

「なぜこのようなことが起き、何が原因なのか」。11日、亡くなった生徒の両親は、中国新聞に寄せた手記でそう問うた。そして、当事者である学校がまとめた調査報告書に強い疑念を示した。
府中町教委は近く、原因究明のため外部の有識者でっくる第三者委員会を設ける。しかし、どこまで正確に事実関係に迫れるかは未知数だ。
焦点になる面談時のやりとりは、学校調査では担任からの聞き取りで、メモなどの記録はない。誤った万引記録の記された資料が使われた生徒指導推進委員会には会議録もない。
このため学校は全校生徒約630人にアンケートを実施。自殺した生徒に何らかの変わった点がなかったか調べる。

3ヵ月経て調査

ただ受験生への影響を考え、公立高入試の終了を待 つて事態を正式に公表した経緯もあり、アンケート配布は10日付。自殺から約3ヵ月。「時間の壁」が立ちはだかる。12日の卒業式後、坂元弘校長は3年生の約8割から回答があったと公表。卒業後も受け付けるという。
今後の調査過程は、子どもたちに「死」を突き付けもする。町教委は学校にスクールカウンセラーを常駐させた。だが特に心のケアが必要な卒業生たちへの対応は明確に決まっていない。事態におののき、後手に回る学校側の対応のまずさばかりが目立つ。
真相究明と心のケア。学校側はこの二つの重い責務を負う。再発を防ぐ手だての検討はこれからだ。国を含め、全ての学校関係者が当事者意識を持たねばならない。(明知隼二、山本和明)

組織的な再発防止策を
学校事件・事故被害者全国弁護団
定者吉人副代表(広島弁護士会)

 担任教諭だけを責めても、根本的な問題は解決しない。学校が、組織として過ちを起こさないシステムをつくり、共有していくことが求められる。
そのため、原因を究明し、再発防止策を探る第三者委員会が近く設置される客観性を担保するために、学校や町教委は運営に直接関与しない立場を貫く必要がある。一方で、学校は亡くなった生徒をよく知る同級生たちへのアンケートの結果を提供するなど、全面的に協力するべきだ。
責任の所在を明らかにするには、どこに問題があったのか、調査ではっきりさせないといけない。遺族の目線に立って真実に迫るため、遺族や代理人の弁護士が調査委員会に参加することも検討してほしい。
成長することは子どもの人権だ。中学校が過去の非行歴を高校に推薦するかどうかの判断材料とするのは、その成長を認めない考え方だ。教育の意義を自ら否定している。
学校で、しかも教員による誤った指導の結果、。生徒は自殺した。子どもは簡単に死を選ばない。何度も迷い、追い込まれていったのだろう。学校側は子どもの言い分をしっかり聞けていたのだろうか。教諭は、ふさわしい場所で時間をかけて面談していたのか。大きな疑問が残る。第三者委で解明してほしい。(根石大輔)
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