平成29年10月24日朝日新聞デジタル
「子の指導死、表面化は氷山の一角」 繰り返される悲劇
池田中調査報告書
福井県池田町立池田中学校で男子生徒が自殺した問題で、調査委員会がまとめた全57ページの調査報告書の写し

 福井県池田町で中学2年生の男子生徒が自殺した問題で、学校での指導がもとで同じように我が子を亡くした遺族も悲痛な思いを抱いている。繰り返される「指導死」。再発防止が課題だ。

■「他人事だったのか」
 「大人が押しつけるような教育は改めないといけないのに、現場は変わっていない」。大阪市立桜宮高校のバスケットボール部主将だった男子生徒(当時17)を自殺で亡くした父親(48)は、池田町で起きた中学生の自殺に胸を痛める。
 生徒は顧問から平手打ちや暴言を繰り返し受け、2012年12月に自殺した。顧問は懲戒免職となり、傷害と暴行罪で有罪に。遺族は市を相手に損害賠償を求める裁判を起こし、昨年2月に元顧問の暴行を自殺の原因と認める判決が出た。
こうした動きが大きく報道されてきた一方で、池田町の中学生は昨年10月ごろから担任や副担任から厳しい指導や叱責を受け、今年3月に自殺した。
 桜宮高校の生徒の父親は、5年近く前の出来事が「風化している。他の地域の教員には他人事だったのか」と感じる。
池田町の事案については、「当事者しかわからない面がある」と断った上で、「なぜ管理職ら周りが異常に気づき対応しなかったのか」と話す。
 大阪市教育委員会は再発防止に向けて13年、「生徒第一主義」「体罰の排除」という部活動の指針を示した。14年には体罰や暴力行為に対する懲戒処分の基準を改正。「授業で問題を解けない」「指示通りにプレーしない」など子どもに非がないのに体罰などをした場合は、より厳しく処分するようにした。
 今年3月には、「暴言」も懲戒処分の対象と明示。市教委の担当者は「暴言の抑止がその先にある体罰の抑止につながる」と話す。だが、体罰をしていた教諭が再び体罰で処分を受けるケースがあるなど、根絶されたとは言えない現状もある。

■価値観押しつけないで
 「『指導死』親の会」共同代表の大貫隆志さん(60)=東京=は「再発しないようにと活動してきたので、ものすごく悔しい」と肩を落とす。00年、中学2年生だった次男陵平さん(当時13)が自殺。学校でお菓子を食べたことで教師から1時間半にわたり叱られた翌日のことだった。
 08年に「親の会」を立ち上げ、生徒指導を原因とする自殺を「指導死」と名付け、社会に訴えてきた。大貫さんは、池田町教委が設置した調査委員会がまとめた報告書について「行き過ぎた指導を自殺の原因だとはっきり認めたことは画期的」と評価する。だが、再び子どもの命が失われたことに、「指導死が起きる恐れが学校で共有されていない。子ども一人ひとりの特性に合わせた接し方が求められている」と話す。
 教育評論家の武田さち子さんは「表面化している指導死は、氷山の一角」と指摘。背景に長時間労働などの教師の労働環境もあると分析する。「『生徒のため』と言いながら、教師が子どもをストレスのはけ口にしてしまう」。また、「生徒を効率よく管理し、学力やスポーツの成績を上げることが重視され、どうすれば一人一人の子どもが幸せになれるかを考える指導が難しい状況も問題」と話す。
 教育現場で指導死を防ぐにはどうしたらいいか。武田さんは「悪い行為をしかっても、人格は否定せず、教師側の価値観の押しつけや思い込みを慎む必要がある。指導中や指導後の子どもの様子に気をつけるほか、保護者との情報共有を徹底する必要がある」と提案する。

■一人で抱え込まないで
 教師の指導に悩む子どもや保護者はどうすればいいのか。不登校や引きこもりに関するニュースを発行する「不登校新聞」の
石井志昂(しこう)編集長(35)は「行政が設ける既存の相談窓口だけではなく、子どもや親が信じられる第三者機関を増やす
必要がある」と話す。
 子どもに異変を感じた親に向けては「子どもに心配していることを伝え、何があったのか率直にたずねてみる。子どもが話して
くれたら、最後まで聞く」とアドバイスする。「一人で抱え込まず、子どもにとって何が一番いいかを探してほしい」
 石井さんは13歳で不登校になった。「つらいなら、学校に無理して行く必要はない。僕は不登校になった後、気持ちを聞いて
くれる人に出会えて救われた。学校で見つけられなくても、そういう人は必ずいることを知ってほしい」(金子元希、長富由希子)

■「指導死」の定義(「指導死」親の会による)
①不適切な言動や暴力行為などを用いた「指導」を、教員から直接受けたり見聞きしたりすることにより、児童・生徒が精神的に
追い詰められ、死に至ること
②妥当性、教育的配慮を欠く中で、教員から独断的、場当たり的な制裁が加えられ、結果として児童・生徒が死に至ること
③長時間の身体の拘束や反省、謝罪、妥当性を欠いたペナルティーなどが強要され、それらへの精神的苦痛に耐えきれずに
児童・生徒が死に至ること
④暴行罪や傷害罪、児童虐待防止法での虐待に相当する教員の行為により、児童・生徒が死に至ること

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

Post Navigation