2021年3月30日付朝日新聞

いじめ調査委員会の「常設を」 高1自殺で検討会が提言

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田中拓海さんが自殺した問題をめぐり提言がまとまったことを受け、記者会見で涙ながらに話す母親(左)=2021年3月29日午後1時24分、鹿児島県庁、奥村智司撮影

2014年に鹿児島市の県立高1年の田中拓海さん(当時15)が自殺した問題で、再発防止策等検討会(会長=高谷哲也・鹿児島大教育学部准教授)は29日、いじめの事案調査にあたる委員会や、県教委の対策を検証する機関の常設などを求める提言をまとめた。

田中さんの自殺をめぐって県教委のいじめ調査委は17年、「いじめがあったと断定できない」と判断したが、県が設けた再調査委は「いじめが自殺に影響した」とする報告書を19年3月にまとめた。これを受けた遺族の要請で、再発防止策を協議する検討会が、知事と教育委員会で構成する県総合教育会議のもとに設置された。教育の専門家と弁護士の4人が委員を務めて19年11月に始まり、今月11日の会議で提言の素案を示していた。

提言では、自殺直後の学校による基本調査で「学校生活の要素が自殺の背景にあることを否定できない」という内容が指摘されていたにもかかわらず、県教委が詳細調査へ移行しなかったと指摘。田中さんの事案にとどまらず、県教委、学校側が国のガイドラインで示された「自発的・主体的に調査の提案をしていると判断できない」とした。

また、事案が公になることから、詳細な調査をする委員会が新たに立ち上げられることに生徒の家族がためらう例が多いなどとして、調査委の常設化を提案した。県教委のいじめ防止の対策が実効性をもって行われるよう、継続的に検証する常設機関の設置も求めた。

「提言でやっと区切りが」

提言の冒頭では、いじめの定義にふれた。再調査委の報告で田中さんへの多くの「からかい」「いじり」があったが、「いじめではなかった」と振り返る元生徒の回答が複数あったことから、「いじめ」を狭くとらえることの危険性に言及。「いじめかどうかは児童らが『苦痛を感じているかどうか』という視点での把握が必要」と指摘した。

田中さんの母親は会見で「検討会が調査してまとめた提言。県教委に今度こそ生かしてもらうよう、強く願っている」と話した。「我が子の死の記憶をたどり、書面で読み返す作業は前に進むためとはいえ、つらかった。提言でやっと区切りが付けられる」と涙ながらに語った。

提言を受け取った塩田康一知事は「いじめ防止の対策について広く共通する内容が含まれている。教師一人ひとりに学んでほしい」と話した。県教委は「提言を真摯(しんし)に受け止め、改めていじめの未然防止策や、重大事態が発生した場合の適切な対応に取り組む」とコメントを出した。(奥村智司)

 

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