平成29年5月10日河北新報社説

仙台・中2自殺/危機管理の意識が足りない

 子どもを守るのは社会の責務なのに、またも中学生の尊い命が失われてしまった。悲憤を抑えきれない。
 仙台市青葉区で先月下旬、市立中2年男子(13)が、自宅近くのマンションから身を投げた。市立中生の自殺はこの3年間で3人目。教育関係者は、この異常事態を深刻に受け止めるべきだ。
 当初校長は「同級生とのトラブル」と表現し「その都度指導し解消した」と説明。しかし、数日して「いじめだった」と認めた。市教育長は「自死の直接原因かは不明」とし因果関係を調べるという。
 事が起きてから重大性に気付き、収拾に追われるパターンの繰り返しだ。どうしてこれまでの教訓が生かされないのか。学校や市教委の危機管理意識を問わざるを得ない。
 男子生徒は昨年6月と11月にあった学校などのアンケートで「いじめられている」と回答した。「無視される」「物を投げられる」とも記した。その後、机に「死ね」と書かれていたこともあった。
 国はいじめ対策で、当事者の訴えを幅広くすくい取り、速やかに対応する基本方針を明確にしている。
 いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」のガイドラインでは、「疑い」の段階であっても本人や保護者の申し立てを重視し「重大事態」とみなすよう学校側に求める。自殺など最悪の結果を招かないための防護線といえる。
 これに照らせば、学校は昨年のアンケートの段階で危険性を認識し、詳細調査に入るべきだったのだろう。

生徒間の意識が変わるポイントになった可能性はある。
 ただ、いじめ防止は法が定めた単一的なマニュアルの上意下達だけでは実現されない。最終的に、現場の教員が個々のケースごとに生徒たちに向き合い、対応力を発揮してこそ法制度も機能する。
 学校は連休中、全校アンケートを実施、回収した。背景を調べることから検証を始める。市教委は第三者委員会による調査も行う。いじめとの関連という核心部分の解明は難しい作業となろう。
 今回の件は、過去のいじめ自殺の検証と再発防止の取り組みのさなかで起きた。これらを一連の問題として捉える視点も当然必要だろう。
 指導に構造的な問題がありはしないか。なぜ連鎖するように生徒が自ら命を絶たねばならなかったか。

遺族はもちろん、同級生たちにもしっかり聴き取りし、納得できる共通認識を探ってほしい。
 市教委は1月、今後5年間の教育プラン「第2期市教育振興基本計画」で、いじめ防止を最優先課題に掲げ、独自の施策をまとめた。処方箋はできつつあるのに、厳しい現実がそれを追い越していく。
 どうすれば、いじめを克服し、命を大切にする教育が実現できるのか。日々の実践の中からその道筋を見つけていくしかあるまい。

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