平成31年2月20日付京都新聞社説

大津いじめ判決 悲劇繰り返さぬ社会に

  大津市の中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺した問題で、大津地裁はいじめと自殺の因果関係を認め、元同級生2人に約3700万円の賠償を命じた。

遺族の提訴から7年余り。問題は社会に大きな波紋を広げ、いじめ防止対策推進法成立のきっかけとなった。いじめと自殺の因果関係が認められる例はまれだという。

判決を重く受け止めたい。命令を受けたのは元同級生だが、悲劇を繰り返さない社会をどうつくるのか、厳しく問われているのは大人である。

判決は「自殺はいじめが原因で、予見可能だった」とした。「友人関係を上下関係に変容させて固定化し、男子生徒を精神的に追い詰めた」と判断。いじめではなく遊びの認識だったという元同級生側の主張を退けた。

近年は「いじり」と呼ばれる行為があり、外部から見るといじめとの境界があいまいだ。被害者は笑っていても、内面では深く傷ついているともいわれる。

当事者の子どもはもちろん、学校や保護者ももっと被害に敏感になるべきだ。判決はそう問いかけているようにも思える。

大津の問題を受けて、さまざまないじめ対策が取られるようになったが、いじめを苦にした自殺は後を絶たない。

全国の小中学校、特別支援学校の2017年度のいじめ認知件数は過去最多の41万4378件だった。被害の掘り起こしが進んでいるともいえるが、ようやく実態把握の緒に就いたとみるべきだ。

今回の問題では学校・市教委の隠蔽体質が批判を受けた。重大ないじめの調査のため全国の教委が設置する第三者委員会についても、文部科学省は「特別な事情がない限り、調査結果は公表が原則」との立場だが、報告書が公表されないケースが少なくない。

具体的な事例から学ばないと、教訓は生かせない。子どもを守ることより、組織防衛や事なかれ主義が前に出る現状を変えない限り、いじめは根絶できないと認識するべきだ。

施行から5年が過ぎたいじめ防止対策推進法は、超党派の国会議員が改正に向けた議論を進めている。より実効性のある対策が求められる。

近年はパワハラやセクハラなど個人を傷つける事案に、社会が厳しい目を向けるようになった。体罰や虐待も含め、子どもを取り巻く環境だけが旧態依然であってはならない。今回の判決を、いじめをなくす契機としたい。

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