平成30年6月11日付神戸新聞

市教委、首席指導主事任せ 対応の異様さ次々に 神戸・中3自殺メモ隠蔽

垂水中3女子2

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メモの隠蔽を認めた神戸市教育委員会の記者会見で、質問に答える長田淳教育長(右から2人目)ら=3日、神戸市役所

神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒の自殺を巡り、同級生らの聞き取りメモの存在が隠蔽された問題では、市教育委員会側の対応の異様さが次々に浮かび上がっている。

遺族が聞き取りの情報提供を求めて雪村新之助前教育長宛てに出した質問書に、なぜか前校長名で回答。また、隠蔽を指示した首席指導主事はこの件について、上司らに相談や報告を一切していなかった。市教委が「隠蔽」を認めて10日で1週間となるが、背景の全容はまだ見えていない。(広畑千春、井上 駿、石川 翠)

メモについて調査した弁護士の報告書によると、遺族は2017年1月、学校が市教委に提出した自殺に関する調査資料の開示を請求。同級生らの聞き取り内容が含まれていなかったため同2月、教育長宛てで市教委に質問書を送った。一方、首席指導主事は前校長に聞き取りメモを出さないよう指示。3月6日、前校長名で「記録として残していない」と回答した。

これについて、首席指導主事の当時の所属長は神戸新聞社の取材に「いつの段階かは不明だが、質問書の文面を見た覚えはある」としつつ「教育長宛てとは気付かず、何らかの対応を指示した記憶もない」とする。

通常、遺族への対応については報告や決裁が行われていたが、この件では一切なかったといい、所属長は「異様な(独断の)対応」とした。首席指導主事は重大事態での対応を統括する課長級ポストで校長経験もあり、「信用して任せきっていた。内容も学校が答える話だった」とし、3月中旬に遺族に回答したことを知った後も、理由などを問うことはなかったという。

17年8月8日、いじめなどを調べた第三者委員会の報告書がまとまり、メモは「破棄された」とされた。

報告書を見た現校長は教員にメモの存在を教えられ、前校長に経緯を確認。同23日、首席指導主事が所属する課の課長に「メモは市教委の指示で廃棄されたことになっているが、一部が学校に保管されている」と連絡した。同月下旬、別の部長にも同様の話をし、報告を受けた雪村前教育長が調査を指示した。

課長は連絡の内容を文書にし、上司の部長に報告したが、一連の経緯について市会の委員会で「意味が分からなかった」と答えた。報告を受けた部長も神戸新聞社の取材に「何について言っているのか分からず、まず時系列の整理をさせた」とし、別の部長は首席指導主事に経緯を聞いた際に「メモはあるはずない」と返答されたという。

市教委は前校長にも聴取をしたが、その内容が雪村前教育長らに報告されることはなく、放置された。

こうした対応に対し、文部科学省は組織体制の改善を指示。市教委は今後、前教育長を含めた処分や、組織の抜本的改革などを検討する。遺族は「市教委は『職務怠慢』としたが、黙認ではないのか。最初からいじめでなく個人間トラブルにしようとしていたのでは」と疑念を呈している。

【神戸中3自殺問題】 2016年10月、神戸市垂水区内で市立中学3年の女子生徒が自殺し、市教育委員会は非公表でいじめの有無などを調べる第三者委員会を設置。17年8月、生徒への容姿中傷発言などをいじめと認定する一方、自殺の直接原因とは認めない形で報告書をまとめた。遺族は再調査を求め、久元喜造市長が今年4月、市こども家庭局が新たな調査組織で再調査することを決めた。

【再調査委で隠蔽背景も検証を】 京都精華大・住友剛教授(教育学)の話 これほどの事案で首席指導主事が独断で対応するのは理解しがたい。それが本当なら、複雑な対応を1人に任せてしまった市教委の側にも問題がある。そもそもの背景には、初期対応の段階で、市教委が自殺といじめの関係をどう捉えたかがあり、再調査委員会ではメモ隠蔽問題を含む経緯の検証も必要になる。

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