平成28年3月10日中国新聞社
緊急連載
府中町中3自殺
<上>

面談5回廊下で立ち話

渦巻く不信

「推薦できないと言われた時、どんな気持ちだったか。(学校側の)間違いで
認められなかったと知ったら本人はどんなに残念か」 広島県府中町の府中緑ケ
丘中3年の男子生徒(15)が昨年12月に、自ら命を絶ってから3ヵ月後の8日夜。
非公開であった保護者説明会で、遺族の悲痛な叫びが響いた。
死後、学校側の明らかなミスが判明する。生徒は別人の万引歴を基に、志願高
校への校長推薦を不許可とされていたのだ。
生徒は公立高を第1志望にし、私立高を第2志望にしていた。私立高は「専願」
推薦という形式で、公立高に落ちた場合、進学すると約束することで受験が有利
になる。推薦には校長の許可を必要としていた。
なぜ生徒に万引歴があると誤認してしまったのか-。学校が説明会や記者会
見で明らかにした、担任教諭と生徒の「面談」は計5回あった。

万引思い込み

1回目の「面談」は昨年11月16日ごろ。担任が「万引がありますね」と伝える
と、生徒は「えっ」と回答。 「1年の時だよ」とさらに聞くと、間を置いて「あっ、
はい」と答えたという。担任は否定する発言がなかったことを理由に、万引があ
ったと思い込んだという。
その後4回のやりとりで担任は「専願は難しい」などと伝え、保護者と話し合
うよう求めた。5回目は12月8日朝で、その後、生徒は自殺を図った。
しかし、面談はいずれも教室前の廊下で5分程度の「立ち話」で、文書などの
記録は残っていない。保護者説明会で出席者の不満が爆発した。「人生を左右す
る高校選びと分かっているのか」
しかも学校側は当初、廊下で面談したと明かさなかった。出席者によると、遺
族側の追及を受け「不適切だった」と認めた。出席した保護者の男性(47)は「事
なかれ主義というか、真摯に話す気がないように思えた」と批判をぶちまけた。
学校側のずさんな対応は次々と明らかになる。誤認の発端は2013年10月。
生徒が万引したとの通報を受けて対応した教諭が、当時の担任に口頭で名前を
引き継ぐ際、ミスが発生。関わっていない自殺した生徒の名が生徒指導の会議
資料に記載され、訂正されないまま残っていた資料が今回の進路指導に使われ
た。
体質を疑問視
今回の問題以外についても、中学校の体質を疑問視する声はある。ある保護者
の40代男性は、喫煙を見掛けて学校へ連絡した際、「指導に行ける教員がいませ
ん」と対応されたことがあると言う。「やっぱりこういうことが起きたか」と受
け止めた。
事態を重く見た文部科学省も動いた。9日、町教委と同中を訪れて事情を聴い
た義家弘介副大臣は「衝撃を受けている」と語り、専門スタッフを置いて事実関
係や問題点の究明に当たる考えを示した。
学校が2月末まとめた調査報告には、生徒が親に漏らしたつぷやきが記されて
いた。「どうせ言っても、先生は聞いてくれない」
(長久豪佑、根石大輔)

学校側の進路指導ミスが原因の可能性が高まっている府中緑ケ丘中の生徒の自
殺。なぜ起きたのか、背景や課題を探る。

厳罰主義誤った指導
教育評論家・尾木直樹氏

私自身、中学3年生の担任や指導主任を何度も務めたが、見たことも聞いたこともない事態だ。「生
徒が万引を否定しなかった」などとする学校側の言い分に憤りを感じる。さらに1年生の時の万引が
3年生になって進路に響くのは、厳罰主義のようでおかしい。二度と同じ過ちをさせないことが重要
であり、指導として完全に間違っている。
昨年11月中旬から12月8日まで5回の進路指導を重ねたとされるが、この短期間では多すぎる。さ
は言わない。多くの人の目に触れる可能性のある場所で、一万引や学校推薦の可否について話すな
ど、生徒のプライドを踏みにじるのも甚だしい行為だ。
第2志望で推薦を受けられないとなると、第1志望の選択にも影響する。受験を控え、ただでさえ
不安な気持ちに襲われるのが中学3年生。その心に寄り添えていないとすれば、非常に問題だ。亡く
なった生徒は志望校をめぐり「親に合わせる顔がない」と追い詰められたのではないか。
第三者委員会の設置に当たっては、遺族の意向をきちんと聞き取ることが最も大事だ。保護者たち
の不安も非常に大きい。自殺公表までの3ヵ月間に、事実の隠蔽や口裏合わせはなかったか。第三者
委員会に加え、文部科学省も調査
に力を尽くしてほしい。
(松本恭治)

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