平成28年3月10日 中国新聞社朝刊
自殺後 元の推薦基準に
府中町中3男子 町教委が指摘
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生徒の自殺をめぐる保護者説明会から一夜明け、登校する生徒たち(撮影・今田豊)
広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒(15)が昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導後に自殺した問題で、学校側が同11月に厳格化した私立高受験の推薦基準を、自殺後に町教委の指摘もあり元に戻していたことが9日、分かった。厳しい基準で認められていなかった19人のうち15人が一転して推薦されていた=31面に関連記事。(田中伸武)
推薦の判断基準で、それまで3年生時の非行歴を対象にしていたが、「1~3年時」に拡大。担任が1、2年生時の非行歴を把握する必要に迫られ、生徒指導で誤った記録を使う一因になったとみられ、学校側の判断が問われそうだ。
町教委や学校によると、基準の厳格化は、最終的に坂元弘校長の裁量で決定した。教諭の間で異論があってまとまらず、決定は11月にずれ込んだ。坂元校長は8日夜の記者会見で「問題行動が多発し、そうでない生徒を推薦したいとの思いがあった」と説明した。
一方、町教委の高杉良知教育長は「基準は各校の判断」としながら、同中の厳格化は「行きすぎだ」と指摘する。同町の別の中学校では1、2年時の非行歴は問わないとしている。
学校は自殺後、元に戻した基準で15人の推薦を決定。各高に校長が出向いて推薦許可を得たという。学校は、誤った万引記録を推薦の可否判断に使っていなければ亡くなった生徒は推薦されていた、としている。

府中緑ケ丘中は9日朝、臨時の全校集会を開いた。坂元校長は、当初は病死と説明していた生徒が自殺していたことや進路指導をめぐる経緯を報告し、謝罪した。
生徒約600人が出席。
終了後、坂元校長は「子どもたちに申し訳なかったという話をした。先生も学校再生のために一生懸命やるから一緒にやってもらえないか、と伝えた」と語った。
学校は全校を対象に、自殺した生徒に変わったことがなかったかアンケートする。町教委は心のケアのため、同中に置くカウンセラーを増やした。
事実関係を調査 文科相
広島県府中町の中学3年の男子生徒が進路指導後に自殺した問題を受け、馳浩文部科学相は9日の記者会見で「省として重大な事案との認識で対処する」と述べ、事実関係の調査を急ぐ考えを示した。
馳氏は、義家弘介副大臣を現地に派遣したことに触れ「事実関係を直接確認し、結果は遺族にできる限り報告する。その上で再発防止に向けて取り組む」と強調
した。
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府中町中3自殺 町教委など会見やりとり

広島県府中町の府中緑ケ丘中3年の男子生徒(15)の自殺を受け、同中と町教委が8日に開いた
記者会見の主なやりとりは次の通り。(33面関連)

-面談の場所や時間は。
昨年‥11月以降に全部で5回あった。場所は全て教室前の廊下。時間は最長で5分程度。担任教諭が男子生
徒と一対一で話した。
-詳しいやりとりは。
担任の「万引がありますね」との質問に男子生徒は「えっ」と言った。「3年でなく1年の時だよ」と聞
くと、男子生徒は間を置いて「あっ、はい」と答えた。担任は否定したとは感じなかったため、万引があった
と思った。

-デリケートな話をなぜ廊下でやるのか疑問だ。
準備室などでゆっくりと子どもの心に届くように話をするべきだった。新年度から必ずそうする。
1万引したのが別の生徒だと分かったのはなぜか。
12月8日に男子生徒の自殺があった後、指導記録を再確認した。校内の記録と町教委への報告資料に記載
された名前に矛盾があった。聞き取り調査をした結果、10日に間違いと分かった。
-なぜそんなことが起きたのか。
2013年に教諭同士が口頭で、万引した生徒の名前の引き継ぎをした。ノー卜などの記録に取らなかっ
た。電子記録に残す際に誤った名前を入力した。会議で気付いた後も元の記録を直さなかった。
-学校推薦の基準を変更したのはいつか。
非常に遅く、昨年11月です。
-なぜ急に変えたのか。
年度当初から非行歴についてどうするかと検討していたがまとまらなかった。
-ハードルを上げた意図は何か。
今の3年生は1年時に問題行動が多発していた。周囲が問題行動をしていても流されず正しい行動をとっ
た生徒を推薦したいという思いがあった。
-生徒の将来に関わることを入試前に変更したことについて今、どう思うか。
非常に甘い判断だった。-変更を生徒や保護者に知らせたか。
知らせなかった。推薦基準はこれまでも学年については書いてなかった。問題ないという意識があった。
-もっと早く公表できたのではないか。
遺族が他の3年生に不安な思いをさせてはいけないと強く思っていると感じたから(公表を控えた)。
-遺族が今日まで公表を控えてほしいと自発的に言ったのか。
はっきりとは言われていない。
-学校や町教委から公表日の具体的な提案をしたことはあるのか。
この日はどうですかということを言ったことはない。
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社説 2016・3・10
その学校の対応に疑問募る
中3男子自殺

 どれほど思い悩んだことだろう。広島県府中町の府中緑ヶ丘中の3年男子生徒が昨年12月、進路指導を受けた後、自ら命を絶った。
学校側が別の生徒の非行事実と取り違え、それを理由に高校受験で学校推薦を出せないと伝えていた。町教委も「誤った記録に基づく指導が原因にあるのは間違いない」と認めた。人を育てる学校が将来ある少年を追い詰めたことになる。
しかも担任教諭が指摘した万引歴は別人のものだった。1年生当時の生徒指導会議で別の教諭が名前を聞き違えて資料を作っていたという。出席者の誰もが誤記と気付いたのに元の電子データを修正する担当が決まっておらず、誤った資料がそのまま引き継がれた。
コメントを出した遺族が「ずさんなデータ管理、間違った進路指導がなければ、わが子が命を絶つことは決してなかった」と憤ったのは当然である。
誰かが電子データを修正してくれるだろうという他人任せな考えが、教員同士や校内になかったか。実際に万引をした生徒の記録についても学校は残していなかった。チェック体制の欠陥は明らかだ。
担任は学校側に「生徒から否定するような発言はなかったので、確認が取れたと思った」と説明しているという。だが亡くなるまで5回にわたる生徒と担任の面談はいずれも廊下で立ち話だったらしい。これでまともな進路指導といえるのか。
周りの目が気になる年代でもある。生徒の物言いや表情から真実を感じ取ることはできなかったのだろうか。今となっては残念でならない。
そもそも学校推薦において非行歴をどう取り扱うべきか。文部科学省は「推薦書類に書くべきか国として基準は示していない」と説明しており、実際は現場任せになっている。
その中で、府中緑ヶ丘中は独自の判断で踏み込んでいた。もともと対象期間は3年時に限っていたが、昨年11月に突然、在校時全体に広げたというのだ。生徒が亡くなった後、元のルールに戻したのも解せない。
その経緯とともに少年少女の立ち直りを学校がどう考えていたかも知りたい。
生徒が亡くなってから3ヵ月もたっている。公立高入試を終わるのを待っての公表となっためは確かだろう。ただ本当に遺族側の求めだったかどうかは必ずしも判然としない。
保護者全体の不安も仕方あるまい。説明会も要領を得ずに紛糾した。設置される第三者委員会での徹底した原因究明と、再発防止策が求められている。
昔に比べ、入試の選択肢は広がっているとはいえ、この年代の多くにとって高校受験は一大事であることは変わりない。人生を左右するとまで深く考える生徒も確かにいる。
だからこそ身近な教員や学校が不安な心に寄り添い、生徒の味方にならねばならない。
子どもが学校の問題で命を絶つニュースに触れるたびに胸が締め付けられる。いじめのほかにクラブ活動などでの行きすぎた指導による「指導死」も相次ぎ表面化している。子どもたちと教師がコミュニケーションを重ね、どう信頼関係を築いていくか。今回の検証から導き出される教訓は重いはずだ。
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