平成28年12月23日朝日新聞デジタル

 大阪市立桜宮高校のバスケットボール部主将だった男子生徒(当時17)が、顧問(当時)から暴力を受けて自殺した事件から、23日で4年を迎える。学校現場で暴力根絶の取り組みが続くが、根絶には至っていない。

男子生徒の父親は「形ばかりの対策になっていないだろうか」と訴える。

 大阪市立桜宮高校(大阪市都島区)では19日、男子生徒の追悼集会が開かれた。在校生や保護者、卒業生ら約900人を前に、角芳美校長は「当時の状況を直接知る者が少数となった今こそ、痛ましい事案を風化させることなく、改革への強い決意を確認したい」とあいさつした。

 同校では事件後、毎日、校長と2人の教頭が交代で部活動を回り、異変を早期に見つける工夫を続ける。月に1度は部活動の顧問たちと管理職との意見交換の場も持つ。教職員を対象に怒りの感情を抑える「アンガーマネジメント」研修にも力を入れる。

 指導者を志す生徒も多いことから、1年生全員が地域の乳幼児と触れ合って生命の尊さを学ぶカリキュラムも、昨年度から続けている。

 大阪市教育委員会によると、2014年度、大阪市立学校の体罰・暴力行為は99件が報告された。桜宮の事件があった12年度の502件から5分の1に減ったが、根絶にはほど遠い。

 今年11月、市立中学の運動部の男性顧問が、複数の女子部員の足を蹴ったり髪の毛を引っ張ったりしたとして停職2カ月の懲戒処分を受けた。この教諭は前任校でも体罰を繰り返したとして14年に停職10日間の懲戒処分を受けていた。市教委の服務担当職員は「なんでまた繰り返されるのか。本当に残念。繰り返し理念や哲学を伝えていくしかない」と嘆く。

 市教委は桜宮高校の事件の翌年9月、部活動指導の指針をまとめ、「プレーヤーズファースト」の精神を打ち出した。

「生徒が主人公の部活動。勝利至上主義から生徒第一主義」「今日の結果より未来の成長」。指針には、こんな言葉が並ぶ。体罰を早期に把握して報告する態勢づくりの徹底を図るほか、懲戒処分の基準も厳しく見直した。

 角校長は「仕組みを改善しても、教職員一人ひとりが事件の教訓を我がことのように学ばないと意味がない。当事者として地道に訴え続けたい」と話す。

 桜宮高校の自殺した男子生徒の父親(47)は、朝日新聞の取材に「教育現場は息子の死から学んだ教訓を忘れてしまったのではないか」と投げかける。

 全国でも教職員による児童・生徒たちへの体罰や暴力行為が相次ぐ。文部科学省の調査では、全国で体罰をしたとして、14年度に懲戒免職や減給、訓告などの処分を受けた公立学校教員は952人。今月18日には、日本大学東北高校(福島県郡山市)が、相撲部の顧問とコーチが部員をゴム製ハンマーで殴るなどしていたと発表した。

 そんな中、父親は「特に大阪の状況は深刻だ」ととらえている。「息子の事件後、一部の教員が大阪市教委に『体罰をせずにどうやって問題のある子どもを指導するのか』と苦情を寄せたと聞く。生徒の個性や特性を見抜き、自信を持たせながら長所を伸ばす教育本来の姿が見失われていないか」

 体罰を繰り返して11月に処分された市立中学の男性顧問のケースなどを踏まえ、「再発防止の誓いや施策が現場に浸透していないのではないか。市教委はしっかり検証するべきだ」と改善を求めている。(小河雅臣)

 

 

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