平成28年3月15日中国新聞

重なったずさん対応
府中町の中3自殺問題発覚1週間

資料の訂正報告されず

広島県府中町立府中緑ケ丘中3年男子生徒=当時(15)=が昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導後に自殺した問題は14日、学校側の公表から1週間がたった。学校のミスや配慮を欠いた指導、組織運営のずさんさが次々と判明。それらが複合的に重なり自殺につながったとの見方が強まっている。取材や学校の調査報告書で明らかになった問題点をまとめた=30面関連。                (府中町進路指導問題取材班)

 

誤記録

2013年10月6日の日曜日、学校に生徒2人が万引したと連絡があった。出勤していた教諭が対応し翌7日、生徒指導担当たちに口頭で引き継いだ。生徒指導担当はノートに残しておらず、生徒指導用の資料作成時、自殺した生徒の名を誤ってパソコン入力。この生徒は、万引現場に行ってさえいない。
7日に別の生徒が教諭に暴力を振るう事案が発生。対応に追われた生徒指導担当は万引した2人に対し、事実確認や反省文を書かせるなど内規に基づく対応を怠っていた。
8日、生徒指導会議で白殺した生徒の名が記された資料が配られ、出席者が誤りに気付いた。しかし元データは訂正されず、サーバーに残った。誤った資料はその後も6回、会議で配られたが誰も指摘しなかった。校長は内規に反し会議に出席せず、その後、資料に訂正があったとの報告も受けていなかった。

 

生徒・保護者に変更知らせず

学校は15年5月ごろ、私立高の『専願』推薦の判断基準にする非行歴を「3年時のみ」から「1~3年時」に広げる検討を始めた。背景には学校の「荒れ」があ
ったとする。
変更をめぐっては3年生の担当教諭だけで協議。3人が拡大に賛成、男子生徒の担任を含む別の3人が反対した。最終的に11月、「経験豊富な職員が強引に押し
切る形」(町教委幹部)で拡大に傾き、校長が追認した。
学校側は基準を変更したことを、生徒や保護者に知らせなかった。変更の議論に時間がかかったのに加え、教諭間の引き継ぎ不足が重なり、推薦校を決定する面談などの期間は例年より短い約1ヵ月間になてた。3年生の担任は、生徒の過去の非行歴を早急に確認する必要に迫られ、それまで進路指導一で使っていなかった生徒指導会議の資料を参考にした。

「面談」の大半廊下で立ち話

「万引がありますね」。自殺した生徒の担任は昨年11月、2年前の誤ったデータを参考に生徒との「面談」でそう切り出した。生徒は 「えっ」。担任が「1年の時だよ」と聞くと、間を置いて「あっ、はい」と答えたという。これらの会話で担任は万引があったと思い込んだ。
計5回の面談の大半は廊下での立ち話。担任は、いつ、どこで万引したのか詳しく聞いていない。「『専願』は受けられない」とも伝えた。内容は学年主任に報告したが、主任は校長に報告していなかった。
最後の面談は12月8日朝。午後に三者懇談を控え、担任は「保護者と一緒に考えましょう」と伝えた。しかし懇談に生徒は現れず自宅で自殺。学校は2日後の10日、万引が誤記録であることが明確になったとしている。

≪明らかになった学校側の主なミスや問題点≫

◆誤記録
・2013年10月、万引が発生。口頭で報告を受けた生徒指導担当がパソコンで資料作成時、誤って自殺した生徒の名を入力
・万引があった日の2日後の生徒指導会議で資料のミスが指摘されたが、元データは訂正されなかった
・一連の会議には内規に反し、校長、教頭は出席しなかった
・実際に万引をした生徒への詳しい事実確認を怠った
◆推薦基準
・15年11月、推薦の判断基準とする非行歴を「3年時のみ」から「1~3年時」に拡大。
賛否が分かれたが「経験豊富な職員が強引に押し切った」(町教委)
・推薦基準の変更を生徒、保護者に周知しなかった
・基準変更の検討に時間がかかり、受験校や推薦の可否を判断する面談期間を約1ヵ月間と例年より短縮
◆進路指導
・担任は誤ったデータを参考に亡くなった生徒と15年11~12月、5回にわたって「面談」。
いずれも廊下で、立ち話だったケースも
・担任は万引の有無を尋ね、明確な否定の言葉がなかったため確認が取れたと思い込む
・担任は「面談」内容を学年主任に報告したが、主任は校長に報告していなかった

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府中町中3自殺

第三者委 人選決まらず

調査前に薄れる記憶

広島県府中町立府中緑ケ丘中3年男子生徒=当時(15)=が昨年12月、2年前の誤った万引記録に基づく進路指導後に自殺した問題で、原因究明の作業が進んでいない。町教委は外部有識者による第三者委員会の設置を急ぐが、メンバーは14日時点で固まっていない。新たな証言を得るための全校アンケート
も、記憶が薄れる中での困難な調査になりそうだ=23・29面に関連記事。
(府中町進路指導問題取材班)
町教委は、8日に正式公表する前に第三者委を設けることを決め、遺族にもその意向を伝えていた。設置要綱は2月9日付で定めている。公表前の3月上旬、県臨床心理士会▽広島弁護士会▽日本生徒指導学会▽広島大-の4組織に委員の推薦を依頼。今も返答待ちの組織があり、「年度内をめどに早急に立ち上げた
い」としている。
設置時期について町教委は「確かに遅い」と認める。遺族の意向や受験生への影響を踏まえ、公立高の一般入試(選抜H)の終了まで正式公表を控えたことが要因とする。
文部科学省は、児童、生徒が主にいじめで自殺した際の対応指針で「発生から日にちがたつほど、子どもたちが何を見聞きしたかあいまいになる」と、早期調査の重要性を指摘している。町教委は今回、この指針を参考にしている。
ただ全校生徒へのアンケートの配布は公表後の10日にずれ込んだ。同級生の3年生は、卒業式前日の翌11日が一応の提出期限となった。アンケートは現在、全校生徒の約8割から回収。今後、学校から提出を受け町教委が分析に当たる。
一方、町教委は14日、2回目の保護者説明会を18日に開くことを明らかにした。8日夜の説明会では学校の対応に批判が集中していた。

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私立校「専願」とは
進学約束選考で優遇

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広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒が進路指導後に自殺した問題は、背景に「専願」と呼ばれる私立高の受験方式があった。受験生にも私立高にも利点がある仕組みとして続いているとみられる。ただ、文部科学省は「広島に特徴的な制度」とする。今回の問題を受け、在り方を議論する必要があるとの指摘も出ている。
専願は、校長推薦を受けて、第1志望の公立高以外の受験校を私立高1校に絞る方式。私立、公立ともに学力試験を受け、公立高が不合格の場合、受験した私立局に進学すると約束する。私立高は一般入試の受験昔より選考で優遇する。
私立高を所管する県学事課は、導入された時期や採用校数を把握していない。
県内の複数の私立高教諭によると、私立高と中学の進路担当者が事前に会議を重ね、高校側が求める成績などの基準と中学側の校長推薦などを踏まえ、専願する生徒を決定する。「専願の受験者はよほどの低得点や試験会場でトラブルがない限り合格はほぼ確実」という。
専願で受験した中学3年の一人は「公立高の試験に安心して臨めた」と振り返る。私立高側も生徒保護のメリットがある。私立高教諭の一人は「中学の教諭が、専願で推薦できない生徒の公立高合格をより確かにするため、公立の志望ランクを下げるよう提案することもある」と明かす。
自ら命を絶った府中緑ケ丘中の男子生徒は、誤った万引歴を理由に専願の推薦はできないと告げられていた。文科省で10日にあった調査特別チームの初会合後、義家弘介副大臣は「広島の入試制度は独自のもの。在り方を議論していく必要がある」と述べている。

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